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沙夜がつき子さんを見上げると、女性のような端正な顔立ちのこの青年は何やら思案顔だ。そんな様子のつき子さんを見た沙夜が腕時計を確認し、
「つき子さんが気になる蛤御門にも行ってみよう?」
「でも、時間は?」
「取材、早めに終わったし、記事も写真も会社には送ってあるし。少しくらい遅くなっても問題ないでしょ」
あっけらかんと言ってのける沙夜に、つき子さんは柔らかな微笑みを向けると、
「ありがとうございます」
「私とつき子さんの仲ですから」
2人はふふっと笑いあうと、今出川御門から蛤御門を目指すのだった。
京都御所を中心にほぼ長方形に整備されているこの京都御苑の外周は長く、1周4キロほどになる。今出川御門から蛤御門までは京都御苑の4分の1ほどの距離なので、沙夜たちは約1キロ歩くことになる。
今出川御門を出発しておよそ10分経った頃に目的としていた蛤御門が見えてくる。汗ばむ陽気だった日中に比べると気温は下がっているのだろうが、それでもスーツを着たまま歩いていると十分に汗ばんでくる。沙夜は着替えを持ってこなかったことを少し後悔しながら歩みを進めていった。
蛤御門に到着した沙夜は口を開けて間の抜けた顔で門扉を見上げていた。
「ねぇ、つき子さん。この門もやっぱり閉まっているように見えるんだけど、夢かな?」
「いいえ、私にも閉まっているように見えます」
「だよねっ?」
勢い込んでつき子さんと蛤御門を交互に見やる沙夜は、中に入られないことを心底悔やんでいるようだった。
「くっそー!何故だ!何故門が開いておらぬのだ!」
沙夜の口調もこの怪現象におかしくなっている。もしかしたら蛤御門から中にある京都御所へと入れるかもしれないと期待して歩いてきた道のりは、見事に裏切られるのだった。
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