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本当に心の底から嬉し気に答えるレオに、思わず胸がつまった。この青年は、自分たちと家族でありたいと願っているのだ。その真情をどう受け止めれば良いのか、わからなくなってしまう。
草准の胸の内に気づいてか気づかずか、レオは屈託なく笑って続けた。
「ニューヨークではいつも、ブルックリンの実家でクリスマスを過ごすんだ。親戚も集まって毎年にぎやかだよ。グランマの作るカネロニとローストターキー、デザートのパネトーネが絶品でね。来年はあんたを連れていきたいな。うちの家族も親戚連中も面食い揃いだから、みんな大騒ぎするだろうな」
来年のクリスマス……自分はこの土地を離れて遠い異国を訪れることなどできるのだろうか。どうにも想像がつかない。
一緒にアメリカに来ないかとこの男に言われた時、確かに心は揺れた。この救いのない恋に区切りをつけるには、無理やりにでも遠く離れた場所に行くしかないのだと思えた。
確かにその瞬間、小さな希望の光が胸に射したように感じられたのだ。
しかしそれはすぐに閉ざされてしまった。劫詠と遠く離れることを思うと、一瞬で希望は絶望に変わった。それが永別になるかもしれない……ありえない不安にとらわれ、自分でもどうしようもなくなってしまったのだ。レオが呆れていることはわかっていたものの。
それに、頼りにしている一番弟子の自分が遠くに行ってしまえば、どれほど師は悲しむことだろう。心中はどうあれ、笑って送り出してくれるだろうが、その顔を想像するだけで悲しくなる。
ただでさえ自分は先生を裏切り、傷つけてなお、傍にいる立場なのだ。これ以上罪を重ねることなど許されない。
いや、そうしたことと同じぐらい、自分自身がどうしても駄目なのだ。
自身の胸から消し去ったはずの、美術館での至福の時が呼び起こされる。少年のように目を輝かせて生き生きと絵のことを語るさま、心の隅々まで照らし出すような優しい笑み。どれだけ時を重ねようと、求める気持は悲しいほどに変わらない。あれほど会うのがつらいのに、いつでも会える場所でなくては生きていけない。
この執着がいつか薄れる日が来るのだろうか……。
はっと我に返り、レオを見る。また気がつけば心が此処になかった。
レオは何も言わず、ひとりでツリーの飾りつけを始めていた。
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