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その週末、峻介が訪ねてきて、草准の「秘密」をレオからすべて聞いてしまったと詫びた。それは何となく予想のついていたことでもあり、さほど驚きはしなかった。それに……、
「どちらにしても、君は気づいていたんだろう」
そう尋ねると、峻介は「ああ」とうなずく。
「気づいていたよ。あんたが誰よりもこのことを隠しておきたかった相手は、あんた自身なんだってことにもね」
「まったく、嫌になるほど勘がいいな」
思わず苦い笑いが漏れる。
表に出さなければ、ないのと同じ……何度も何度も胸の中で繰り返してきた。本気の恋などではないのだと思い込むことでどうにか平静を保ってきた。本当に峻介の言うとおり、本当の想いを隠し、欺きたかった相手は誰よりも自分自身だったのだ。
だから、隠し事のできるはずもない分身のような甥にも、どうしても胸の内を明かすことができなかった。とうに気づいているのだろうと薄々わかっていながらも。
峻介は少し沈痛な表情になり、言った。
「だから僕は草准さんが苦しんでいるのに気づいていながら何も言えなかったし、何もできなかった。あんたには漣のことで、どれほど力になってもらったかしれないのに……」
「大したことはしていない。僕にできたのは、せいぜい君の惚気を聞くぐらいだよ。僕の場合はとうてい惚気ることなどできない相手だし……」
思わず本音を口にしてしまったとたん、さらなる胸の奥にある思いがこぼれる。
「レオを好きになることができたら、どんなにいいかと時々思うよ」
峻介はわずかに目を瞠って叔父を見た。そうして小さく息をつき、口を開いた。
「やっぱり、あんたは少し、変わったな」
その言葉を、草准は困惑と共に受け止めるしかなかった。その気持に気づいたのだろう。答えを待たず、峻介は重ねて問う。
「レオは、あれからここに来てるのか?」
それもまた困った問いだった。どこまで答えたら良いものか思案しながら、よけいなことまで思い出してしまい、頬が熱くなる。幸い、峻介は見ぬふりで流してくれたが……。
「来てるよ。住んでいると言ってもいい」
頬の熱はおさまらず、半ばやけになって草准は答えた。
「何日か前に入稿を終えたらしくてね。大きな仕事が終わったことだし、これまで少し働き過ぎたからしばらく休めと会社に言われているらしい。ほとんどどこにも行かずここにいて、炊事だの掃除だの、畑仕事まで手伝ってくれてる」
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