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 遠目にも目立つ、男らしく整った顔立ちに一瞬、目を奪われる。やや大またにこちらへと歩いてくる堂々とした佇まいといい、ゆったりとしたスーツが似合う逞しい身体つきといい、どこかしら周囲を圧する雰囲気を持つ男だった。  草准のすぐ前に立ち、軽く笑顔を見せて頭を下げたその仕草も落ち着いたものだ。新人と言ったが、とてもそうは見えない。 「先月から日本支局の勤務になったレオナルドだ。なかなか優秀な男でね。レオ、君もよく知ってるだろう。この方が古箭草准先生だ」  そう紹介したとたん、ポケットの携帯が鳴り出し、「ちょっと失礼」と手島は慌ただし気に立ち去ってしまう。  残された男はかすかに目を瞠り、草准をじっと見つめた。 「あんたが……」  ためいき混じりの呟きから、驚きが伝わってくる。  こういった反応には慣れていた。  草准の絵を見て、勝手にそのイメージを思い描いていた人間は、たいてい実物に会うと、驚きを隠せないらしい。  生の気配がまったくしない、静謐で透明な風景画ばかりを書いている彼は、よほど「枯れた」人物だと思われているらしく、どうも実際の年齢よりもかなり年を取った、ゴツゴツとしたストイックな男性画家というイメージがつきまとうようなのだ。  実際そうであればどんなにいいかとも本人は思っているのだが、現実にはたおやかな花鳥画や美人画でも描きそうな、実年齢にすら見えない華奢な青年である彼を見て、皆、言葉をなくす。  もっともそれは顔写真やプロフィールを公開しない自分の責任でもあるのだし、若い頃よりギャップは少なくなってきたようにも思う。今では草准自身にも、相手のそういった反応を楽しみ、観察するだけの余裕は生まれてきていた。  目の前にいるこの男は果たして自分をどのように思い描いていたのだろう……。  さっと感情を隠してポケットから名刺を取り出す男の、その鮮やかな表情の変化に思わず見とれながら草准は考える。少なくともそう詮索したくなる程度には、印象深い男だった。  オリエント・アート社 日本支局  編集員 レオナルド・C・タカハシ  名刺には日本語でそう書かれてあった。  思わず相手の顔をまじまじと見つめる草准に、男は小さく笑顔を見せて説明する。
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