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 ということは、草准は10代にして父も母も亡くしたのだ。孤高が身についたようなこの画家の佇まいは、そうしたことに理由があるのだろうか。 「レオ、君のお母さんはお元気なのか?」  不意にそう聞かれた。話を湿っぽくしたくないのだという草准の意志を感じ取り、レオは気持を切り替え、笑って答える。 「俺のマムは元気だ。今はブルックリンの実家で、グランマと暮らしてる。ケンカばかりしてるが、それなりに楽しくやってるみたいだよ」  草准は少しだけ目を瞠ってレオを見つめ、そうして楽しげに笑った。 「不思議なものだ。そういう喋り方をすると、君はまるでアメリカ人だな」 「俺はアメリカ人だが……」  少しばかり憮然としてレオは答える。そうして、もどかしい気持のままに続けた。 「そんなことより草准、それからのことを聞かせてくれないか?」 「それからも何も、別に、両親がいなくなったからといって古箭の家を追い出されたわけじゃない。家を継いだ長兄の奥さんもいい人だったし、嫁いでいた姉たちも、たびたび実家に戻ってあれこれ世話をやいてくれたしね。大学にも行かせてもらえて、古箭の家の人たちには、ずいぶんと良くしてもらった」  まあ、考えてみれば、それも当然かもしれない……とレオは思った。  今も草准は美しいが、10代の頃はそれこそ輝くような美少年だったに違いない。そんな彼を、嫂や姉たちが寄ってたかって可愛がるさまを想像し、少し可笑しくなってしまう。  そんな育ち方をしたなら、もっと傲慢な男になっても良いはずなのに……もう少し画家の内面を掘り下げてみたくて、レオは質問を重ねた。 「絵は、いつから描くようになったんだ?」 「ああ、かなり幼い頃から描いていたかな」  草准はわずかに遠い目をして答えた。 「僕も天真爛漫だったわけじゃない。幼い頃から、この家の人たちに頼らないと生きていけないという自覚はあったから、無意識に愛される子供を演じていたところもあるんだ。どうしたって疲れてしまうこともあって、そんな時はひとりで庭や近くの野原に出て絵を描いた。幸い僕の描いた絵は皆に喜んでもらえて、もしかするとこれがいつか自分を立たせてくれるかもしれないと、早くから思っていた」 「それで、美大に進んだのか。しかし若い学生なら、まずは油画に行きそうなものだが、どうして日本画を?」
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