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「手島支局長が新人だなんて言って紹介するから、話がややこしいことになった。日本支局の新人っていう意味で言ったんだろうけどな。でも、新人じゃないなんて胸を張って言えるほどのものでもないし、初めの頃、あんたはあからさまに、新人がずかずか入ってきやがってみたいな目で見るし、正直、きつかったよ」 「それは、すまなかった」  情けない表情で本音を漏らすレオに、草准は可笑しそうに笑って詫びた。 「でもしかし、何年もアメリカ本社で活躍していた君が、どうしてまた急に日本に来ることになったんだ? まあ、それまでの経歴を考えれば、それも自然な流れかなのもしれないが」  さらりと訊かれ、レオはどきりとした。そうして胸の中で小さく一呼吸し、答える。 「……古箭草准の取材をするためだよ」 「そうか、手島氏あたりから推薦があったってところだな。だけどあの偏屈な日本画家の取材を取り付けるには、ふつうのアメリカ人じゃだめだってことで、半分日本人のような君に白羽の矢が立ったんだろう。気の毒な話だ」  いや……全然そういうわけではないのだが……誤解も甚だしい推測をさらさらと述べる草准に、レオは落胆と安堵の入り混じった複雑な思いを覚える。  どちらかといえば自分は今、一世一代の「告白」をしたつもりだったのだが。まあ、伝わらなくてよかったのかもしれない。 「……ということは、レオ」  草准はと言えば、すでに別のところに思いが及んでいたようで、不意に真顔になってレオにたずねた。 「君は、この取材が終わったら、ニューヨークの本社に帰ることになるのか」  考えないようにしていたことを訊かれ、にわかに気持が翳る。しかし嘘を言う理由もなく、レオは答えた。 「ああ、半年の予定で来ているから、12月には帰ることになる」 「そうか……」  草准は小さくうつむいた。 「今はもう10月だから、考えてみれば、あと少しということなんだな……」  その寂し気な表情に、困ったことにレオは心ときめくような心地を覚え、尋ねずにはいられなくなる。 「もしかして、寂しいのか? 草准」 「そりゃ寂しいに決まってるさ」  拍子抜けするほど、草准はあっさりと答えた。 「この短い間に、君とはたくさんの時間を過ごした。そういう相手がいなくなれば、寂しくなるのは当たり前だろう。でも、仕方ないさ。人生には出会いがあり、別れがある。いつだって僕はただ、見送るだけだよ……」  白皙をわずかに赤くして、歌うようにそんなことを言い始める。  この画家が少しばかり酔いすぎていることに、レオはその時、初めて気づいた。
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