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「君は母親のアンドロイドを椅子で殴った、間違いないね?」
目の前の警察官の言葉に、小さく頷く。
何があったのか、興奮していたから、断片的にしか覚えてない。
私はママを殴って、テーブルを倒して、ママが倒れて、暴れて、パパが必死に私を止めた。大きな音をたてたから、ご近所さんが通報したらしい。しばらくしたら、警官がやってきて、荒れたリビングを見て、驚いた顔をした。
ママは、リビングの端っこで倒れている。首が、ありえない角度に曲がっている。コードが一本、見えている。
「直りそうですか?」
別の警官の言葉に、額に血をにじませたパパは悲しそうに首を横に振り、
「故人AIを積んでいるので。壊れたら、直すことができないんです」
「ああ……」
警官がなんて声をかけるべきか、ご愁傷様でいいのか、そんな口の動きをした。
「君ね、家庭内のことは基本的に警察がでしゃばることじゃないけど……、でも、家庭用であってもアンドロイドの破壊は器物損壊罪で逮捕しなきゃいけないんだよ。君は未成年だから、またちょっと手続きが違うけど」
年嵩の警官が、諭すように言う。
アンドロイドの価値を守るために、どんな理由があっても、個人用であっても、アンドロイドの破壊には罪が成立するようになっている。
でも、器物損壊?
「違います。私の罪は、器物損壊じゃないです」
「え?」
私は、怪訝な顔をしている警官をまっすぐ見つめた。
私は、アンドロイドを壊したんじゃない。
「私は、ママを殺したんです。だからちゃんと、殺人罪で裁いてください」
私はママを愛していた。私にとって、ママは、紛れもなく母親だったのだから。
「ちゃんと、ママの死を人間のものとして、扱ってください」
そのためなら、死刑になったって構わない。
ああ、この考え方、ちょっとママに似ているかも。違反行為だってわかっていながら、椅子に座ったままに。
やっぱり、私は、ママの子なのだ。
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