生徒会長誕生

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「全く、紅螺蒔は甘いな。 あまり甘やかすと調子に乗るぞ」 「そんなつもりはない、 苛めるなよ、本当に泣いてたぞ」 窘めたところで、 どうせ得意のウソ泣きだろと 切り捨てられてしまった。 「……ま、柊木の言うことも あながち間違っていないか。 お前は別格だからな、誰も足元にも 及ばない、この俺も然り」 「過分だ」 「いや、特別さ……紅螺蒔、お前はな」 眉一つ動かさず竜胆が言ったまさにその瞬間、 十六時の重厚な鐘の音が執務室に鳴り響いた。 「――おめでとう、紅螺蒔 千迅(こうらじ ちはや)会長。 三期続投決定だ」 執務室から職員棟に赴き辞令書と 各役員届けを受け取って教室から出た時には 既に十七時半を回っていた。 正式発表は明日。 僕は長い大理石の廊下を見上げて 誰もいないのを確認して眼鏡を外した。 「……ッ」 それでも目がゴロゴロするのは コンタクトの所為か。 思わず手に持った眼鏡に力が入る。 「誰が……生徒会長などなりたいものか」 目を抑え溢れたでた本音は 先程の竜胆の言葉によってかき消される。 “お前は特別さ” それが―― 僕が名だたる名家や資産家の ご子息ばかりが集うこの学園においてすら、 一目置かれる程の莫大な富を持つ 紅螺蒔家の人間であるという 意味でないことくらい分かっている。 「でさ……」 「本当か?それ、アハハ」 (まだ残っている者がいるのか) 僕は眼鏡をかけ直し足早に学園を後にした。
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