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大事な何かと引き換えに
別の大切な何かを失うとしたら
人はどちらを選ぶのだろう。
引き換えに等価など決して有りはしない。
それに気付くのはいつも失った後で。
多くの者は失ったモノの方を憂い、
自分の過去の選択を後悔し続ける
のかもしれない。
今の僕のように――
「会長、再選おめでとうございます」
「紅螺蒔、おめでとう」
「……ありがとうございます」
まだ、正式な通達は未だだというのに
学園に入った途端に祝辞か。
しかも会長選を辞退した上級生にまで
言われるとは。
「千迅様、どうかされましたか」
「いや、なんでも」
「そうですか。
では、私は先に事務室に行って
手続きを済ませてきますが宜しいでしょうか?」
「ああ、悪いが頼む」
いつものように僕を生徒会執務室の前まで送ると
中に入るのを見届けてから一礼し、
別棟に向かう禅図の後ろ姿を
扉の隙間から暫し目に留めた後、その扉を閉めた。
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