濃紺と銀色

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「うわー、星野が王様への反乱を起こした」 「謀反じゃー謀反じゃー」 「殿中(でんちゅう)でござるー」 「電柱? 電柱がなんでここで出てくんの?」 「電柱じゃないし。日本史ちゃんと学べ」 「忠臣蔵だってば。知らない? 推しがゲームでオオイシの声やっててめっちゃハマった」 「……どうでもいいけど、お前ら少しおれの腹を(いた)われ……」  腹を抱えてその場に崩れ落ちた王様を、護るつもりの全くない忠臣たちがきゃっきゃと騒ぎ立てる中、薄いグリーンの、やたらぬるまったミントの香りが、わたしの鼻先にまで漂う。 「……王様なんか、信じるか。馬鹿」  信じたいんだけど、信じたくないような、別に信じさせてくれなくてもいいような、でも、でもなんか。あーもう。頭の中で、わけのわからない気持ちがやみくもに全力疾走を始める。ぐるぐるぐるぐるぐるぐる。  ――というのが、二十五年前の夏のお話だ。
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