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養成所修了式。
これからは仕事として自分で歩んで行かなければならない。
事務所からオーディションのメールが入れば直ぐに向かう。その為にネタを作らなければならない。エキストラに先輩芸人のライブの交通整理。
オーディションも受からない。やはりお金になる仕事が出来ない。食べて行けない。
僕はお袋から渡されたメモを取り出した。浅草橋の繊維問屋だった。
「早水勇斗と申します、宜しくお願いします」
面接は簡単に終わった。早速明日から働ける。事情も理解していただき、イレギュラーは認めていただける。何ともありがたい条件で雇ってもらった。
寝る時間もない生活が始まった。でも苦ではなかった。好きな事をさせてもらっている
。たまに事務所所有の劇場でネタを披露しても、話しにならない位未熟さを思い知らされる。それでもうけてくれた時の嬉しさは中毒になる位嬉しい。
仕事も我が儘を聞いてもらっている分、やるときは一心不乱に働いた。
仕事場ではパートさんのうけがいい。売れなくても芸人だ笑わせるプロだ。
「早水君て年は違うけど若社長に似ていい男なんだから芸人じゃなくて俳優になればいいのに」
古株のパートさんは「若社長の15年前とウリ二つよ」と言っていた。
「若社長にですか?そんなそんな…ところで前の社長にお会いした事ないですけど」
と聞いてみた。
「大社長は息子に会社を任せて自分の好きな海と星が見られる葉山の方に住んでいるわよ、たま~に来るけど会った事ない?」
「ええ、ありません」
「大社長もいい男よ、若い頃はモテたでしょうね」
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