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真っ暗な東京
無我夢中で三年半が経っていた。
コンスタントにステージに立ってはいたが日の目を見られない。
「そろそろ限界かなぁ~」
2004年9月4日
その日、東京のほとんどが停電になった朝方に通過した台風で送電線が遮断された。
夜になっても回復はしない。勇斗はその日仕事をしていた。クーラーも効かない光もない。仕事は切り上げるしかなかった。
僕は何故か会社のビルの屋上に行ってみた。
「真っ暗な東京って不気味だなぁ、信号も駄目なのか…」
誰もいない真っ暗な街中のビルの屋上にいる。孤独感はまるで夢破れて暗闇の中をさ迷う自分にはピッタリだと、そう思った時、後ろから声がした。
何故か懐かしい温かい包み混む様な声だった。
「何真っ暗な下を見てる?何も見えないだろう?それより空を見てごらんなさい」
返事をしようとした時、耳元でお袋の声がした「挨拶しなさい!」こんなの初めてだった。
僕はあわて「こんばんわ、空ですか?」
「そう、空」
「うわ~っ!東京に出て来てこんな星空見るの初めてです」
僕はその時、あの日、何の光の邪魔がない母に誓った九十九里の星空を思い出した。
「私も見た事がない、私は海と星空が好きでね、東京じゃ見る事が出来ないから今は神奈川の葉山に引っ込んでるんだよ」
僕はその話しから以前パートさんが言っていた大社長だとわかった。
「あの、失礼しました。早水勇斗と言います。宜しくお願いします」
緊張して声が上ずっているのがわかった。
「知っているよ、話しは聞いている。頑張ってくれているんだってね」
「いえ、あの…自分は夢があって…その…皆さんにご迷惑とわかっていながら働かさせてもらってます」
しどろもどろ返事をしていると、目が慣れたのか暗闇のなかなのに大社長の顔が星の光でうっすら見えた。温かな笑顔で見られている。その顔を見たら、何故だか心が落ち着き、続きを話しはじめてしまった。
「夢と言っても今では自信を失くしてしまっていて、でもお袋に一番光る星になって楽させるなんて言って一人にして出て来てしまったので、絶対約束守りたいんです」
「一番光る星ねぇ~」
「はい!」
「一つだけの星を見て人はこんなに感動するだろうか?」
「え?」
「嫌、君は頑張っている。夢を叶えるのに頑張っている、その為に仕事も頑張っている。夢が大切だから頑張れるんだろ?諦めては駄目だ、まだ3年とちょっとじゃないか」
「はい、諦めません」
何故か弾みで言ってしまった。
さっきまでの絶望感は失くなっていた。
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