番外編 星祭り

2/4
前へ
/23ページ
次へ
 手早く片付けを済ませて、ロエルは外に出た。  もうじき日が暮れる。  今日は一日天気が良かったから、今夜も晴れるだろう。  そう思いながら、穏やかな気持ちで空を見上げる。  幼い頃から、よく聞かされてきた。  恋情のあまりに神の怒りをかった二人の物語。  雨が降ったら会えない。  天が晴れて星々の河が夜空に流れていたら会える。  あえたらいいのに。  だいすきなひとにあえないのは、さびしいよ。  そう言う度に、兄たちに天の神様に祈れと言われた。  大通りを、ロエルは急いで歩いていた。 「わっ!」  どん!と男にぶつかって転びそうになる。 「ああ、すみません。探し物をしていたので」  手を取られて前を見ると、上等な絹を纏った端正な顔立ちの青年が立っていた。 「いえ、こちらこそ」  はっとして、手に持っていた包みが潰れていないかを確かめる。  ──よかった、大丈夫そうだ。  ロエルがホッとしていると、青年がロエルをじっと見て言った。 「⋯⋯それは、星餅ですね」 「え?そうですけど」  青年の真剣な瞳に、なんだかドギマギしてしまう。  今日は星餅を持って歩いている人なんか山ほどいるのに。 「それを、分けてはいただけませんか?」 「えっ、ええっ!?これは、おれが作ったものなんです。今から届ける先があって」 「ずっと探していたんです。純粋な気持ちの入った星餅を。それは、あなたの『想い』が込められている」 「純粋?」 「見返りを求めない、相手をまっすぐに思う気持ちです」  ──確かに、今日の星餅作りの為に時間をやり繰りして準備してきたし、一生懸命作ったけど。そこまで御大層な代物じゃない。 「そんな大層なものじゃないんですが」 「いいえ!近年は、なかなか純粋な想いが集まらないんです。河の神は真摯な想いを好まれる。このままでは、晴れても河の流れが足りないのです!!」  ⋯⋯何を言われているのか、さっぱりわからない。 「困ったなあ」 「お願いします。どうしても、今夜必要なんです」  青年は深々と腰を折って、頭を下げた。その姿勢のまま動かない。  通りを歩く人々の視線が自分たちに集中するのがわかる。  ああ、もー!!たぶん、こういうところが、おれのダメなところなんだ⋯⋯。 「⋯⋯わかりました」  ロエルはため息をついて、持っていた星餅を差し出した。 「ありがとうございます!!!このお礼はどんなことでも」 「大丈夫です。えっと、2個入ってますから」 「本当にありがとうございます!!」  青年は、ロエルに輝くような笑顔を向けた。 「ロエル!」  聞きなれた声に呼ばれて振り返る。  銀色の髪が夕暮れにきらめいた。息を切らせて走ってくる。 「なかなか来ないから、迎えに来た」 「ごめん、今ね⋯⋯」  ロエルが青年の方を向いた時、そこには誰もいなかった。  夕焼けに染まる通りに、穏やかな風が流れていくだけだった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

496人が本棚に入れています
本棚に追加