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「それで星餅をあげてしまった、と」
「⋯⋯」
緑水晶の瞳が何か言いたげに揺れる。
ロエルがソファに座ると、リアンは薫り高いお茶を渡した。受け取りながら、自然にうつむいてしまう。
「約束してたのに⋯⋯ごめんね」
──本当は、一番よくできたのを最初に分けたんだ。喜んでほしかったから。
そう言いたかったのに、言えなかった。
ロエルがしょんぼりしていると、おでこにちゅっと柔らかい感触がした。
ソファの隣に腰かけたリアンが、ロエルのやわらかい髪をくしゃくしゃと撫でる。
赤くなっていると、綺麗な包みが渡された。
中から出てきたのは、手首につける細い金鎖だった。
目をこらすと、小さな星が連ねてある。
凝った細工は職人が丹精込めて作った作品だとわかる。
「星祭りの日には贈り物をするものだろう?」
「うん」
「ロエルは腕が細いから、軽い素材がいいと思って。知り合いに腕のいい職人がいるから⋯⋯どうした?」
ロエルの目がじわじわと潤む。
「⋯⋯気に入らなかった?」
リアンが心配そうにのぞき込んでくる。
黙って首を振る。
「ごめん」
──おれがあげるものは何もないのに。
伏せたまつ毛の影から、涙がぽろりと零れた。
「ごめんじゃなくて」
「⋯⋯ありがと」
その一言をいうのが精一杯だった。
くすっと笑う声がして、華奢な体が大きな体にそっと抱きしめられる。
甘い花の香りを胸いっぱいに吸い込むと、ロエルの萎れた気持ちはすっと楽になった。
************
数日後。
「この間の星祭りの夜空。とびきり綺麗だったなあ」
「いつもは雨が降る事が多いから、よかったなあ。天の二人も会えたことだろう」
そんな言葉があちこちから聞こえる。
鬱陶しい雨続きの日々の中、人々の声は和やかだった。
「これ。どこから来たの?」
蒼月の勝手口で、ロエルはマオと向き合っていた。
怪訝な表情を隠せない。マオの手元には、白銀の布包みがあった。
「さっき、店の前でロエルに渡してくれって言われたんだよ」
「どんな人?」
「えー、あれ?どんな??」
マオは可愛らしく首をかしげている。会ったばかりだと言うのに、思い出せないらしい。
⋯⋯埒があかない。
部屋に戻って布を開くと、蓋つきの白い陶器が姿を現した。
パカリと空けると、きらきらと輝く小さな星型の飴がびっしりと入っている。
「星飴⋯⋯!」
──子どもの頃、昔話に聞いた。
食べて願い事をすると何でも叶えてくれるって。
天上で星作りの仙人たちが星の光の欠片で作るという飴。
──本物なのかな?本当に?
すっごく綺麗だ。こんなにきらきら輝くの、初めて見た。
ロエルは思わず笑顔になって、ぱくりと一つ、口にする。
「!!!」
途端、体中に黄金の光が溢れた気がした。
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