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「なんで、ここにいるんだ?」
「ええと⋯⋯、ええと!?」
広い稽古場の真ん中。一人で座っているリアンの膝の上にいるのが、なぜかなんて。
ロエルにも、わかるはずがなかった。
「最近、ただ働きばかりで、疲れてるんだろうか。ロエルが空中から現れたように見えたんだが」
真剣な顔でリアンがぶつぶつと呟く。
──ただ働きなのは、カザル兄さんとの約束のせいだ⋯⋯。
「本物なのか?」
ぺたぺた、さすさすと頬に触られる。
ロエルは、真っ赤になって頷いた。
リアンの膝から降りようとしたが、腰をしっかりとつかまれて離してもらえない。
「えっと⋯⋯リアン」
「なに?」
優しく見つめられて、どきんと胸が鳴る。
「また、星餅作ったら⋯⋯食べてくれる?」
「もちろんだ」
満面の笑みがあふれた。
リアンの温かい腕がロエルの背中に回り、唇がそっと重ねられた。
ロエルの体には、きらきらと小さな星の雫が光っていたが、二人は気づかなかった。
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青年は、ほっと息をついた。
彼の星餅を捧げると、河の神は大層喜ばれた。
近年稀にみる、純粋な想いの結晶らしい。
大盤振る舞いで星々の河は見事に流れ、光の橋も架かった。
数年ぶりの恋人たちの逢瀬に天上は大宴会。
地上にも、たくさんの幸がまかれたことだろう。
彼は、御礼の星飴を喜んでくれただろうか。
きらりと光る星々を見ながら幸運を祈る。
今年は運が良かった。だが、来年はまたどうなるやら。
「ああ、管理人も楽じゃない⋯⋯」
そんな呟きは、さらさらと流れる星々の中に消えていった。
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