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番外編 君への願い
「マオ、できたよー!」
ロエルが大きな蒸籠を開ける。
蒸気があがって、中には、ほかほかと蒸したての饅頭が並んでいた。
「わーい!」
仕込のマオがロエルを手伝って、盆ざるに次々に饅頭をうつしていく。
「マオ、気をつけて。火傷しないようにね」
「うん、大丈夫!!」
今日、ロエルの学校は休みだった。
学校が休みの日は、ロエルは店を手伝ったり、みんなの食事を作ったりする。
マオは稽古の無い時に、ロエルの手伝いをするのが好きだった。
ぷーぷー。鳴き声がする。
「あれ?どうしたの。ここまでくるなんて?」
足元に温かいものがすり寄ってきた。
ふわふわの毛並み。くるんと丸まったしっぽ。
まあるい目がこちらを見ている。
「ルル」
ベビーピンクの子豚は、ロエルが後宮から家に戻る際に譲り受けたものだ。
普段は部屋でおとなしくしているが、時々、ロエルの姿を探して家の中を歩き、とことことやってくる。
賢い子で、決まった場所以外には行かないので助かっている。
「おいで、おいで」
マオが大喜びでしゃがみこんだ。
「ぼくのおやつ、あげる」
先ほど自分がもらった饅頭の皮の部分を千切ろうとする。
「もう、マオ!ルルの食事は決まった時間にあげるんだよ。おやつばかり食べてたら太っちゃうでしょ!」
ロエルが窘めても、聞く様子もない。
ぱくりと饅頭を食べた子豚を満足そうに抱き上げて、頬をすり寄せている。
「あれ?ルル、これ、どうしたの?」
ルルの鼻先についたものをマオが摘まみ上げる。
「きらきら光ってる⋯⋯」
ロエルは、はっとした。
⋯⋯もしかして。星飴の欠片?
「ちょっと、ルル、口開けて!!」
ルルの顔にも、口の中にも星飴を食べた欠片らしきものはなかった。
「マオ、ルルを見ててね!」
目を丸くしているマオとルルを置いて、ロエルは慌てて部屋に向かった。
パン!戸を開けて部屋の中を見たが、特に変化はない。
先日リアンの元に飛んで以来、これは大変なものだと青くなった。
白銀の布にくるんで厳重にしばり、すぐには出せないように戸棚の奥に仕舞い込んだ。
奥から取り出しても、星飴は前と同じ状態になっている。
ルルに付いていたのは、勘違いだったのかな?
下手に星飴を食べると、大変なことになる。
ロエルはそれが身に染みて以来、誰にも星飴を見せなかった。
正直、どうしていいやら困っていたのだ。
「⋯⋯じつは、願い事なんて、そんなにないんだよね」
ロエルの願いは、ささやかなものだった。
家族や店のみんなが元気でいてくれること。
毎日ご飯が食べられて、眠る場所がある。
後宮に留まることなく、無事に帰ってこられたのだから、もう十分だった。
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