番外編 君への願い

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   ああ⋯⋯。  願いと言えば。  リュカ。  隣国のアスウェルに仕込のリュカが王太子と旅立ってから2カ月が経とうとしていた。  ロエルは何度か手紙を送ったが、返事が返ってきたことはない。  リュカは元気だろうか。  返事がなくてもいい。  願いは一つだけだった。  大事な友人が異国でも元気で暮らしていますように。  白銀の布を開き、白い陶器の蓋を開ける。夜の星々の光が部屋の中に溢れる。  一粒だけ手に取って、ロエルはもう一度、陶器をきれいに包みなおした。  星飴を棚の奥に戻し、膝の上で手を組んで祈りの姿勢になる。 「気を落ち着けて、集中して」  ぱくりと星飴を口に入れる。  ただ一心に、友人の無事を祈った。  ◆◇ 「え、あれ?」  リュカは、あわてて目を開けた。  殴りかかってきた男たちの姿が見えないと思ったら、足元で気を失って転がっている。 「何でだ?」  城下に買い物に出て、道に迷ったところだった。  細い路地に入り込み、気が付いたら後をつけられていた。これはまずいと思った途端、襲撃にあった。  丸太のような体の男たちに、細い自分では太刀打ちできるはずもない。  ひどい目に合うことを覚悟していたのに。  石畳にのびた男たちは、ピクリとも動かない。 「そこのお姉さん⋯⋯いや、お兄さんか?」  路地裏から出てきた、古びたフードを被った老女が言った。 「あんたには、今、御星の加護がある。さっさと家にお帰り」 「御星?」 「あんたの周りに、ちらちらと星の欠片が輝いている。やれ、珍しいものを見たもんだよ」 「星の欠片ってなんだ?」 「あんたのことを思う誰かが、どこかで無事を祈っているのだろうよ。星には、人の時間も距離も関係ないのでな」  わかるようなわからないような言葉を聞いて、リュカは首をかしげながら城に戻った。 「俺のことを思って?」  ふっと、茶色の優しい瞳が浮かんだ。心がじんわりと温かくなる。 「ロエル」  ⋯⋯お前が俺のことを思ってくれていたらいいのにな。  ぽつりと独り言がもれた。  ◆◇ 「星飴じゃなくて、金箔の残り!!」  畳の隅に転がっていた瓶と蓋を見て、なるほどと思う。  この間作った星餅に使った金箔が、瓶の底に少しだけ残っていた。  そういえば、きれいだから、残った金箔を入れた瓶を部屋に持って来たんだっけ。 「瓶の蓋が緩んでたのかな。食べても美味しくはなかったね」  ルルに告げると、ぷーぷーと、「そうだ!」と言うような鳴き声をあげる。  ふふっとロエルは笑って、ルルの頭を撫でた。 「リュカ。元気だといいな」  ロエルはルルと一緒に、窓から本物の夜空に光る星を眺めた。  一際明るく光る星が、リュカは無事だと告げてくれたような気がした。
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