496人が本棚に入れています
本棚に追加
ああ⋯⋯。
願いと言えば。
リュカ。
隣国のアスウェルに仕込のリュカが王太子と旅立ってから2カ月が経とうとしていた。
ロエルは何度か手紙を送ったが、返事が返ってきたことはない。
リュカは元気だろうか。
返事がなくてもいい。
願いは一つだけだった。
大事な友人が異国でも元気で暮らしていますように。
白銀の布を開き、白い陶器の蓋を開ける。夜の星々の光が部屋の中に溢れる。
一粒だけ手に取って、ロエルはもう一度、陶器をきれいに包みなおした。
星飴を棚の奥に戻し、膝の上で手を組んで祈りの姿勢になる。
「気を落ち着けて、集中して」
ぱくりと星飴を口に入れる。
ただ一心に、友人の無事を祈った。
◆◇
「え、あれ?」
リュカは、あわてて目を開けた。
殴りかかってきた男たちの姿が見えないと思ったら、足元で気を失って転がっている。
「何でだ?」
城下に買い物に出て、道に迷ったところだった。
細い路地に入り込み、気が付いたら後をつけられていた。これはまずいと思った途端、襲撃にあった。
丸太のような体の男たちに、細い自分では太刀打ちできるはずもない。
ひどい目に合うことを覚悟していたのに。
石畳にのびた男たちは、ピクリとも動かない。
「そこのお姉さん⋯⋯いや、お兄さんか?」
路地裏から出てきた、古びたフードを被った老女が言った。
「あんたには、今、御星の加護がある。さっさと家にお帰り」
「御星?」
「あんたの周りに、ちらちらと星の欠片が輝いている。やれ、珍しいものを見たもんだよ」
「星の欠片ってなんだ?」
「あんたのことを思う誰かが、どこかで無事を祈っているのだろうよ。星には、人の時間も距離も関係ないのでな」
わかるようなわからないような言葉を聞いて、リュカは首をかしげながら城に戻った。
「俺のことを思って?」
ふっと、茶色の優しい瞳が浮かんだ。心がじんわりと温かくなる。
「ロエル」
⋯⋯お前が俺のことを思ってくれていたらいいのにな。
ぽつりと独り言がもれた。
◆◇
「星飴じゃなくて、金箔の残り!!」
畳の隅に転がっていた瓶と蓋を見て、なるほどと思う。
この間作った星餅に使った金箔が、瓶の底に少しだけ残っていた。
そういえば、きれいだから、残った金箔を入れた瓶を部屋に持って来たんだっけ。
「瓶の蓋が緩んでたのかな。食べても美味しくはなかったね」
ルルに告げると、ぷーぷーと、「そうだ!」と言うような鳴き声をあげる。
ふふっとロエルは笑って、ルルの頭を撫でた。
「リュカ。元気だといいな」
ロエルはルルと一緒に、窓から本物の夜空に光る星を眺めた。
一際明るく光る星が、リュカは無事だと告げてくれたような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!