平穏で平凡な朝に

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平穏で平凡な朝に

  この日。  碑文谷絵理里佳(ひもんや・えりりか)は、16歳の誕生日を迎えた。  極めて平凡な、ありふれた朝だった。  エリリカという少し変わった名前は、父の名前「絵理夫」と、若くして亡くなった産みの親「里佳」の名前を取ったからだと、本人は聞いていた。  父は、高名な脳神経学者の碑文谷絵里夫(えりお)だ。この年67歳。ノーベル医学賞を受賞した、超天才学者だ。  多数の特許と、企業からの多額の研究資金を利用して、財団を設立。  現在は、東大の特命教授兼「BB財団」の理事長を勤めている。  BBとは、brainとbloodの頭文字だという。  brainは、絵里夫博士の専門分野だが、脳科学のためには、血液の研究が必須だとして、外部から研究者を集めていた。  エリリカは、絵里夫とは随分と歳の離れた娘だったため、よく「お孫さんですか?」  と、間違われた。 「だから、お父さんは、私と歩きたがらないのよね。顔もそっくりだし」  エリリカは、若い頃の父と瓜二つだった。友人からは、「双子みたいね!」と揶揄された。  
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