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ホームパーティー その2
その2. ハニーズトーク (史・理人・欧介)
「理人くん、この皿でいい?」
史は白いスープ皿を理人に見えるようにする。鍋の火を弱めて理人は笑顔で答えた。
「はい、ありがとうございます。櫻田さん、苺、これにいれてもらえます?」
「あ、はい、欧介でいいですよ」
気がつけばこの三人でキッチンに立ち、残りの三人は黒瀬を筆頭にリビングでくつろいでいた。欧介は苺を盛りつけながら言った。
「すみませんね、うちの子手伝いもしないでくつろいじゃって…」
「柾もですよ…飲んじゃってるし」
理人は満面の笑みで答えた。
「いいんですよ、あの人も話し相手がいないと拗ねるので…おかげで助かってます」
律と柾は、黒瀬の話に真剣に耳を傾けている。意気投合したというよりは、講義を聞いているようだった。
欧介が心配そうにつぶやくと、隣で史が答える。
「律が話に着いていけるといいんだけど…大丈夫かな」
「大丈夫ですよ。賢そうな、きちんとした子じゃないですか」
「家だと、口が悪くてひどいんですけどね」
史は笑って、リビングで黒瀬の話に聞き入る律と柾をちらりと見た。何の話題なのか、このうえなく真剣だ。
理人が皿に熱いスープを注ぎながら、史と欧介に言った。
「急にお声がけしたのに、みなさん快く来ていただいて嬉しいです。黒瀬が外出嫌いなので、いつも二人なんですよ」
「じゃあ、バーで僕と会ったのは珍しい日だったんだ…」
「そうなんです、彼の出張の日で。史さんに会えてよかったです」
理人と史の会話を聞いていた欧介が、低くつぶやく。
「確かに…バーでも行かないと、こういう話出来る友達はなかなか出来ませんよね」
史と理人は神妙な面もちでうなづいた。それぞれに苦労した様子が伺える。と、理人は運ぼうとしたスープ皿を載せたトレーを持ったまま、固まった。
「理人くん?」
「お二人に…聞いてもいいですか?」
史と欧介は顔を見合わせ、真剣にうなづいた。二人は同い年、理人はふたりの5歳下だった。
「お二人は…年下のお相手だから……その…やっぱり、頻繁ですか?」
「えっ」
「あー…」
史は口を手で押さえ、欧介は、ぽん、と手を打った。これが性格の違い。
自然に三人は近づいて、小声で話し始めた。
理人は少し恥ずかしそうに続けた。
「黒瀬と僕はかなり年が離れてて……その割には回数が多い方だと思うんですけど…みなさんはどうなのかなって…」
理人がちらっと史を見る。史は欧介を見た。欧介は自分を指さし、俺?と首を傾げた。おそらく自分が言わないと、史は恥ずかしがって言えないのだと察知して欧介は二人を手招きした。
小声でごにょごにょ答えると、史は口を押さえたままさらに赤くなり、理人はえっ、と声を上げた。
「さ…さすが、若い…」
「律くん、僕より年下ですもんね…」
「…っはは…」
史、理人、欧介の順にぼそぼそとつぶやき、静まりかえると今度は史に視線が集中した。仕方なさそうに、史は欧介と理人を手招きする。
ごにょごにょ。
「…なんだ、そんなに俺らと変わんないじゃないですか」
「柾さん、穏やかな感じなのに意外でした…」
「…だから言いたくなくて…二人ともいい年なのに…」
欧介、理人、史の順に、ぼそぼそ喋る。
そしてやっと理人の番がやってきた。理人を囲んで、再びごにょごにょ。
「……黒瀬さん……すごい…」
「やっぱり若い恋人を持つと違うんだな……」
「病気してから減ったんですけどね…」
「マジで?!減ってその回数?!」
「ある意味尊敬……理人くんも」
「えっ…僕はそんな」
「いやいや、体力がないとなかなかね…理人くん、鍛えてるの?」
「鍛えてません!なにを鍛えるんですか!」
「なにって…」
三人で顔を見合わせ、しばらく爆笑した。リビングの三人が、不思議そうな表情で遠くから見ている。
なんとか笑うのをやめてスープや苺を運ぼうとした時、いつのまにか柾がキッチンの入り口に顔を出していた。
「あの、ワインこぼしちゃって…何か拭くもの貸していただけます?」
柾は話の内容も知らずに、人当たりのいい笑顔で言った。
理人と欧介はいきなり現れた柾と、キッチンの奥に立つ史を、ふたり同時に見た。
史は自分に集中した視線に一瞬で赤面し、そばにあった布巾を柾にむかって投げつけた。
「わっ、ちょっと史さん冷た…」
「は、早く持ってけ!」
何それ…と、ぶつぶつ言いながら布巾を持ってリビングに向かった柾と、キッチンの端っこでしゃがみこむ史。理人と欧介はもう一度大笑いした。
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