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702号室
「お土産のガトーショコラー♪」
「え、欧介さん、今から食うの?」
「え、食うよ?」
「…いいの?太るよ?」
「ふ…」
冷蔵庫の前で欧介は凍り付いた。そして開けた扉を締めて振り向いた。
「ふ…太った…?俺」
「太った、んじゃなくて、太るよ?って言ったの」
「怖いこと言わないでよ~」
欧介はダンサー上がりなので、太る、という言葉に過剰反応する。律はそれを知っていてたまにそれで遊ぶ。
「でもさ、本当に気をつけた方がいいよ。もう32じゃん?」
「やなこと言うじゃないの、どうせおじさんですよ」
「でも、俺は欧介さんが丸くなっても嫌いになったりしないからね」
「…丸くって…」
ガトーショコラを食べるのは諦め、欧介はベランダを開けて煙草に火を付けた。自分の腹をさすりながら、欧介はため息をついた。
「あ、気にしてる~」
律は背後から欧介をハグした。クスクス笑いながらウエストまわりを撫でると、欧介は思いっきり息を吸い込んでへこませた。
「気にするよ。やっぱり、格好良くいたいから、律の前では」
「いつも格好いいから大丈夫」
「りっちゃん、やけに上機嫌だね。どうしたの」
「ん~…別に…」
律は後ろから、欧介の頬に何回もついばむようなキスをした。
「ねえ欧介さん…今日さ」
「うん?」
「食事の支度してる時、俺のこと見てたよね」
「うん、見てたよ?」
「何で?」
「可愛いから」
「そこは愛してるからじゃないのっ?」
「…言わなくてもわかるでしょ?」
「まあ…うん」
欧介は律の方に身体を向けた。ベランダの柵に背中を預けた欧介に、律は身体を寄せてキスをした。
律は欧介の服の中に手を入れ、焦らすように執拗に撫で回した。
「…っ…あ、律…ちょっと…」
「ん?」
「胸ばっか触んな……」
「育つかなと思って」
「育つか!…っ…ん…っ…」
「まんざらでもなさそうじゃん?」
「触るんなら…他も…触ってよ…っ…」
「欧介さん、エロい」
欧介は煙草と逆の手で律の顔を引き寄せキスをした。舌が絡み合って卑猥な音を立てる。マンションの下を酔っぱらいが賑やかに通り過ぎていくのに気づいて、欧介は声をひそめた。
「ねえ律…さっきの黒瀬さんと理人くん…」
「うん」
「色っぽいよね、あのふたりって」
「うん、わかる」
律は黒瀬教授の講義を思い出し、心の中で俺、頑張ります、と宣言した。
すると、それを読みとったかのように欧介が言った。
「それで律…今日、いつにもまして手の動きがやらしいんだけど…」
「俺の精一杯の愛情表現です」
「……何か…誰かから新しい情報ゲットした?」
「さすが…するどいな」
「え?」
「何でもない!さ、ベッド行くぞ」
「そんな急に、雰囲気もへったくれもない…」
「なに?抱いてあげないよ?」
「やだやだ、抱いて♪」
ベランダの窓がカラカラと音を立てて閉まり、二人は手足を絡めながら寝室に向かった。
(702号室 完)
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