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2001号室 黒瀬/長谷川
「…ぁあっ…は…ん…っ…」
繰り返し軋むベッド。同じリズムで短く喘ぐ声。汗にまみれた二つの身体。時間など気にしなくていい休日、黒瀬は獣のように理人を抱く。
理人の少し長めの髪が、さらりとシーツに広がって黒瀬の情欲をかき立てる。
「一樹さんっ……も…無…理…っイきたいっ……」
「もう少し楽しませろ……っ…」
「い…やぁ…っ…ぁんっ…あっ…」
理人の細い腰を強く引き寄せ、黒瀬はぬぷりと理人を貫く。身体を引いて、さらに深く。理人はシーツを握りしめ、呼吸がうまく出来ないように顎を上げる。短く喘ぐ理人を黒瀬は見下ろし、薄く笑った。
「…いい、か、理人…っ…」
「…ぁ…っきもちい…っ…んっ…あ…」
「理人……っ…」
理人の身体が強く痙攣した。白濁の愛液を腹の上に吐き出して、理人の身体から力が抜けた。気を失ったように動かない。
「…おい、大丈夫か?」
「………死にそう……」
「理人…」
「……起こして…ください…」
黒瀬は理人を抱き起こし、顔に汗で貼り付いた髪を優しい手つきでよけた。力なく微笑む理人に、黒瀬は低いトーンで尋ねた。
「悪い…やりすぎたか…」
「ちょっとトんだだけです……大丈夫です」
理人は頭を黒瀬の胸に寄せて答えた。髪を撫で、心配そうに覗きこむ黒瀬に、理人は答える。
「一樹さんにまた愛してもらえる日が来て……僕は幸せなので…心配しないでください」
「…そうか」
黒瀬は汗にまみれた理人を抱き上げ、バスルームへ消えた。
「それで、一樹さん。来週の日曜日の予定、大丈夫ですよね?」
「来週の日曜?」
「忘れたんですか?言ったじゃないですか、7階の……」
「ああ……、そうだったな…」
「橋口さんと三澤さん、午後には来ますから。ワイン買っておいてくださいね」
「わかってる。で……この間も聞いたが、その7階の奴らは大丈夫なのか」
「ほんとにもう…ご本人の前でそういうこと言わないで下さいよ?だから、バーで話してたら、ここの住人だったって言ったじゃないですか」
「言い寄られてるとかじゃないだろうな」
「だから何度も言ってますけど、お相手と一緒に来るんです。…酔ってるときに話した僕が悪いんですけど、本当に覚えてませんよね…」
「……酒に弱くなったからな。覚えてられん」
「…わかりました。今度から素面の時に話します」
「そうしてくれ。……まあ、珍しくお前が楽しそうだから、構わん」
「……そんなふうに見えます?」
「ずっとお前には辛い思いばかりさせてきたからな…笑っているのを久しぶりに見た」
理人はソファで前を見たまま呟いた黒瀬を振り返った。
バーで知り合った三澤 史は、同じ性的指向の男だった。話しているうちに同じマンションに住んでいることがわかり、理人が家に招いた。
黒瀬の所有するマンションの最上階のワンフロアが、二人の家だった。
「辛くなんかなかったですよ。周りからどう見られようと、僕は幸せでしたから、ずっと」
「……だったらいいが」
「一樹さんは、僕といて…窮屈じゃないですか」
「窮屈?」
「束縛してしまうから…」
「そうしろと、言っただろう。望むところだ」
ふふ、と笑った理人を黒瀬の腕が引き寄せ、唇を重ねる。理人の長い睫毛が静かに伏せられる。
病魔に引き裂かれそうになった黒瀬と理人は、一生を共にすると決めていた。
理人は幸せそうに黒瀬の膝に頭を乗せた。
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