流行りの最先端

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流行りの最先端

 テレビからこのCMが流れると娘がひどくせがむのだ――。 『嘘!? アヤカはまだなってないの??』  制服を着た女の子が驚いたように友達に声をかける。 『どんなに頑張ってもならないんだもの……』  落ち込む女の子。そこへ画面いっぱいに二枚目俳優が『そんなときにはコレ!!』と言いながら手のひらサイズの箱を持って登場。 『これを飲めば誰でも3日でインフルエンザに!!』  箱を落ち込んでいた女の子に渡すと、女の子が大喜びしながら大き目のカプセルを飲み込む。 『コレさえあれば安心だね。今年の流行り派香港B型だよ!!』  最後にはご丁寧に《服用は用法・用量をよく守り、薬剤師とご相談の上ご使用ください》とテロップが流れる。  近年の若者はなんだってお揃いにしたがり、流行りというもの敏感だ。といっても病気までその対象になるというのはどうなのだろうか。  頭を抱えながらも、コレのお陰で家計が儲かっているのも事実なので簡単に批判もできない。 「お父さん!! お願い!! クラスでなってないのあたしだけなんだよ!! アレ、買ってよ!!」  大泣きしながら、私の肩を揺さぶる。 「だからね、何度も言っているけれどアレは身体によくないんだよ。予防接種ならいつでも受けさせてあげるけど……」  溜息を吐きながら違う提案をしてみるが娘は余計に泣き出す。 「違うの!! ならないようにしたいんじゃなくて、なりたいの!!」  娘はこの言葉のあとはいつも同じ言葉を吐いて妻のところに行くのだ。 「お父さんの馬鹿!! お医者さんの癖に!!」  いつになったら娘は医者が病気にするものではなく、予防と治すものだと理解してくれるのだろうか。
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