存在すら認識されていない神様

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存在すら認識されていない神様

私は今、勇者の役に立つべく神官として教育を施された結果、神の選抜儀式に参加しております。 孤児院から魔力の才能が有った子供が引き取られたとある施設で、私はとても幸せな暮らしをしていました。 毎朝毎晩ご飯を食べられ、字や計算等の貴族が教育を施せる位に優れた講師から学びを受け、柔らかなベッドで寝起きする事が出来たのです。 貧困により私を捨てた両親との思い出よりも、施設で切磋琢磨する同期との思い出の方が鮮明に残っています。 「マーベルーテ、前へ出なさい」 神官長に呼ばれた私は、魔方陣が描かれた祭壇に足を踏み入れます。この魔方陣で祈りを捧げる事で、数多の神々の中から波長の合う神と交信して加護を得る事により、晴れて神官となれるのです。 「我が祈りを聞き届けし神よ、願わくば御身の加護を与え給え」 魔方陣が輝き出し、天に向かって光の柱が立ち上ります。魔力がなければ出来ない事で、もしも加護を得られなかった場合は神官にはなれず、小間使いとして生きるか、施設を出て魔力を扱う職業に転職するしかありません。 私は神官になれなかったのなら、この施設で小間使いとして働かせて貰うつもりです。箱庭の中で生涯を終えた方が幸せだと思ったからです。 勇者の元で神官としてそばに居られるのなら例え苦難な道のりでも、必ずや魔王を打ち倒し、平和な世界を築いた者達として崇められて出世や巨万の富は約束された様なもの。 万が一、神官になれても勇者と共に歩めなければ、道半ばに倒れたり、進級試験に合格出来ずに燻り続ける未来しか待っていないでしょう。それ程に勇者と他の者達との間には隔絶した力の差が有るのです。 『其方の祈り、我の元に届いた。加護を授けよう』 光の柱の中に、一筋の青い光が私を照らし出します。どうやら神に祈りが届き、加護を得られた様です。 「加護を授けし偉大なる我が神よ。御身の名を教え給え」 『我が名は《ムニムニョヘフス》。世界の始まりより前に顕現せし忘却の彼方へ置き去りにされた神である』 「・・・え?」 私の祈りを聞き届けたのは、この世界が出来た当初より存在せし偉大なるお方でしたが、その存在は今日に至るまで、誰にも認識されていない超どマイナーな神様でした。 私は数日後に幾ばくかの金銭と、旅立ちに必要最低限の荷物を受け取り、箱庭であった施設を後にしました。 因みに同期のミルベルリーテは超メジャーな神世七代、《キングズダム》でした。勿論、勇者に選ばれたのは彼女であったのは言うまでも無い事です。
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