勇者のなり損ない達

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勇者のなり損ない達

私は1日中歩き続けて隣町に辿り着く。買物に行く時には馬車を使っていたので近いと勘違いしていました。 人の歩みで初めて辿り着いたこの街は、冒険者ギルドが一番大きな建物で、勇者を志した者達が認定試験に落ちてまた元のならず者に返り咲くのを拒み、最後の砦として冒険者になる道を選んだなり損ないが数多くいる場所でもあります。 私を基準にするのなら、魔力はあれど神官になり損ねた者、もしくは神官に離れたものの、勇者に選ばれず自らの手で道を切り開く為に立ち寄る場所でしようか。 勇者かどうかを見極めるのは至極簡単で、「俺は勇者だ!」と自らが宣言していても、胸に煌めく勇者認定紋章が無ければそれは只のでまかせで真の勇者では無いのです。 勇者になれなかった者でも、他の職業に就いて努力を重ねて実力を伸ばせたのなら、勇者から声をかけられることもあります。勇者には複数のお供が必要ですから。 その中でも、神官は勇者の仲間に必ず居る程に重要な立ち位置となります。もしかしたらいつの日か私が勇者と共に旅をする時が来るかもしれません。 私は冒険者ギルドに入る前に宿屋に足を運びます。活動するにも拠点は必要です。なけなしのお金で1週間泊まれる安宿を見つけなければならないのです。 「ごめんください。宿を取りたいのですが、一泊おいくらでしょうか?」 中に入り、カウンターに居座る宿主に話しかけます。 「ここは大部屋なら一泊銅貨でも大丈夫だが、女性が一人で泊まるにはお勧めできないね。一人部屋だと銀貨になるよ」 「そうですか。この街で一人部屋が銅貨で済む宿は有りませんか?」 「無くはないが、そっちは起きたら身ぐるみ剥がされてても文句が言えない様な安全が保障されない宿になるぞ?」 最低限の保障を得るにはお金がかかる様です。日々の糧を得る為の働き口を今すぐ探さねば、この街に居続ける事すら叶わないでしょう。 「こちらで一人部屋をお願いします。歩き疲れて、今すぐ休みたいのです」 銀貨を渡して部屋の鍵を受け取る。二階の奥の部屋らしい。最後の力を振り絞る様に階段を登り、部屋の鍵を開けて中に入って鍵をかけ直した私は、ベッドに向かって倒れるかの様に横になりました。 「明日は仕事を見つけなければ・・・くう」 眠気が勝り、着替える手間も惜しんでそのまま眠りについてしまいました。起きたのは翌日で、大変お腹が空きました。 下に降りて宿主に安い飯処を訪ねて、宿を出ました。銅貨を払い堅いパンを食べて薄味のスープを飲んだ後、私は冒険者ギルドに入りました。 中に居たのは男女比で9対1と男性が圧倒的に多く、誰も勇者認定紋章を付けていない勇者のなり損ない達で溢れていました。男性の神官と思わしき人が数人居ましたが、彼等は勇者と共に歩めなかった私と同じ境遇の様です。
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