星降る夜の世迷言

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〈星解き〉は天文分野のあらゆる事象から吉凶を占う。かの国では、〈星解き〉の先見の明がよく当たるというので、いつしか(まつりごと)(くみ)するほど重用され、今や銀時計を持っているだけで国賓級の待遇を手に入れられる。 「大陸から〈星解き〉様がおいでなすったようです」  不寝番からの一報を受けて、リトは長老の住まう天幕へと案内された。ジジジ、と蝋燭の燃える音が聞こえる。桟敷に設えた椅子にふかく腰かける長老はこの季節というのに動物の毛皮で膝から下を覆い隠している。値踏みするような目つきは想定内だ。はなから歓待されるとは思っていない。  リトはみずから進み出て、平身低頭した。〈星解き〉様をひと目見ようとひしめきあう村人たちの視線が背中に刺さる。 「まずはこのような時分から先触れもなく押しかけるに至ったご無礼をお許しください。一宿一飯の恩に感謝申し上げます。……恐れながら、私は国にまつろわぬ一介の〈星解き〉にございます。こたびの来訪の目的は、かの国と御村のあいだに健全なる外交を結ぶことでも、かの国が覇権のために御村の侵犯をはかっているわけでもございません」  リトの無防備なうなじに冷たいものが当たる。リトをこの天幕まで案内した不寝番が背後に隠していた槍を構えて刃を押し当てたのだ。リトはぴくりとも動かない。  直れ、と長老は小さく不寝番に言い聞かせた。不寝番は構えを解いて槍を背後に持ち直し、敬礼をしたのち石像のように動かなくなった。  長老の嗄れた声が天幕の内にこだまする。 「おぬしが含みあってここを訪れたでないことは、わかっておる。そうでなければ、星が騒いだはずじゃ。今宵は星が静かだからのう」  リトは詰めていた息を吐き出した。やっと呼吸ができる。 「皆、恐れるでない。〈星解き〉様をもてなすのじゃ」  息をひそめてことのなりゆきを見守っていた村人たちが、弾かれたように騒々しくなる。もともと陽気な人たちのようだ。訓練された動きで宴の準備にかかる。リトのために長老の隣に席が設けられ、目の前に羊肉の丸焼き、器に山と盛られた果物、発泡酒が運びこまれた。長老に勧められるままご馳走に手をつけると、切り分けた丸焼きは香辛料の刺激がぴりりと舌に残る。果物もよく熟れていて、そのまま齧りつけば果肉から滴る果汁が口内を潤す。 「舞姫様がお渡りだよ」  リトが発泡酒の泡で口髭をたくわえていると、宴の場がにわかに活気だった。ご馳走から盛土の舞台に焦点を移すと、ひとりの少女が天幕の陰から歩み出てくるところだ。
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