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孔雀石を砕いた緑で瞼を彩り、頬には紅をさし、結い上げた髪の上から背中に流すようにヴェールをかぶっている。スパンコールが鏤められた衣装は目の醒めるような青。きゅっと絞られた袖と裾に縫いつけられた鈴が少女の手足の動きに合わせてしゃんしゃんと鳴る。
舞台の真ん中で少女は立ち止まった。凛とした背中だ。気負いはなく、力の抜けたしぐさでリトに向かってお辞儀する。
「〈星解き〉様。お目もじかない光栄に存じます。僭越ながら、踊り子ナターシャ、ひとさし舞わせていただきたく」
立見の見物人たちの口笛が鳴る。喧騒が静まると、傍に控えていた竪琴弾きが弦を爪弾き、朗々と謡いはじめた。
そもそも宇宙のことわりは
神が摘みにしいのちにて
星は啼くとも恐ろしや
星が啼けども恐ろしや
謡いに合わせてナターシャは舞う。しとやかな身のこなし。手が翻り、指の先まで洗練された動きに、リトは見入った。土埃舞う足拍子。鈴の鳴る音がしだいに小刻みになり、謡いにも調子がついてくる。
いのち燃やして尽きぬれば
還りて生まるるさだめなり
星は啼いてもありがたし
星が啼くこそありがたし
少女は弾みをつけてくるくると舞う。こめかみを汗がつたい睫毛から飛び散るようすまで、計算された演出のようだった。ナターシャは全身全霊でもって、いのちの躍動を表現していた。
竪琴がかき鳴らされ、少女が死を擬態するように蹲って動かなくなると、見物人たちは皆両手を擦り合わせて拝みはじめた。長老ですら、ほろほろと涙を流している。
「ああ、ありがたやありがたや……」
「星神様が顕現なされた……」
少女はたしかに茫然自失にみえた。動けずにいるナターシャを竪琴弾きが抱えて天幕の向こうへと消えていく。それを見送って、リトは感想を期待されているのを悟って口を開いた。
「素晴らしい舞でした……今の踊り子は」
「ナターシャですか。あの子はこの村にたったひとり、神に選ばれし舞姫じゃ。普段はあまり表に出てこぬが……いやはや、〈星解き〉様は幸運にあらせられる。めったにないものが見られましたぞ」
「ふうん」
リトの感想は「素晴らしい舞」それだけだ。星神様は降臨などしていなかった。それが見えていながら、口にしないだけ空気を読んだつもりだ。
ただ、あの踊り子のことは気になった。正体を失くすまで舞に傾倒することは、容易くはない。そして「神に選ばれし」舞姫であること。十人並みの体格である竪琴弾きにやすやすと担がれてしまう華奢な身体に、どれほどの期待を背負っているのだろうか。
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