星降る夜の世迷言

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 宴もたけなわとなり、酔い潰れてその場に寝そべる参加者たちを踏みつけないよう苦心しながら、リトは天幕を後にした。リトのために用意された寝床の在り処は知っているが――リトは酔い醒ましも兼ねて、今も不寝番がせっせと薪をくべる焚火から遠ざかるほうへと足を向けた。  焚火を見失わないぎりぎりまで距離をとり、夜空を仰ぐ。圧倒的な星の密度を感じた。目はいいほうだったリトでも、かの国でこれほどの数の星にお目にかかったことはない。星が降るようだという表現はこういう夜を指すのだろう。むしろ、頭上の星々がそのいのちを終えて、輝きを失い、ふるい落とされたものが積もり積もって、この果てなく続くような砂の大地となったのだろうか。 「〈星解き〉様とあろうお方が、道に迷っておいでなのかしら」  凛とした声には聞き憶えがあった。近づく砂を踏む音は自分のものより軽い。  振り返ると、さきほど見事な舞を披露してみせた踊り子が、豪奢な衣装から夜着に姿をやつして立っていた。彼女もおそらく、寝る前にこっそりと部屋を抜け出してきたのだろう。化粧を落とした素のままのナターシャは、舞台の上で見たときよりあどけなく見える。健康的な浅黒い肌と、豊かに流れる黒髪が、星明かりでも見てとれた。 「お身体はどうですか。こんなところで油を売っておらず、よく休まれては」 「お気遣い痛み入りますわ。舞のあと動けなくなってしまうのは、いつものことなのです」 「星神様が顕現なさるから?」  核心に触れると、ナターシャは上辺だけの笑みをやめて心底つまらなそうに唇を尖らせた。 「あたくし、ずいぶんと夢見ていたものよ。〈星解き〉様がおいでくださるのを。噂では、真実を見る目をお持ちだとか。それならいっそ、あたくしのもとを訪れて、この嘘っぱちを見抜いてはくれないものかしらって」 「嘘っぱち?」
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