星降る夜の世迷言

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「あたくしはしがない踊り子よ。舞姫と担がれているけれど、そんなたいそうなものじゃないの」 「でも、あなたは星神様に選ばれたと聞いたが」 「そういう血筋なのよ」  そこでいったん言葉を切って、ナターシャは人差し指を一本立てる。そのまま唇に寄せた。 「今から話すことは、聞かなかったことにして頂戴」  これはあたくしの世迷言、とナターシャは歌うようにつぶやく。 「あたくしのママもね、舞姫だったの。あたくしなんて遠く及ばない、それはそれは情熱的に舞うひとだった。……あたくしがママの跡目を引き継ぐことになったとき、こっそり教えてもらったの。ママでさえ、実際に降りてきた(ヽヽヽヽヽ)のは三回だけだったって」  リトはこっそり息を呑んだ。リト自身は、星神様の存在など、ひとかけらも信じていなかったのだ。今も、そして修道会に入って養成と修練に明け暮れた昔でさえ。 「あたくしはまだ数えるほどしか人前で舞ったことがないけれど、星神様がおいでになる気配はないわ。それでも、皆涙を流してありがたがってくれるの。……今日何も仰らなかったのは、あなたの真実の目が曇っていたせいかしら」 「誤解なさっているようだが、〈星解き〉の本分はあくまで占うこと。真実の目など虚言に過ぎない。それに」  良心の呵責に苛まれるナターシャの双眸に夜空の星屑が映り込む。その純粋さがひどく恨めしい。 「皆があなたを神と信仰しているなら、そう思わせておけばいい。それが救いになることもある」  彼女にとって、リトの言葉は眼から鱗だったようだ。瞳の中の星屑がかき消え、次に映り込んだのは、見慣れたおのれの顔。 「薄情なのか、反対に情がふかいのか、よくわからないひとね」 「ご想像にお任せを」 「……せっかくですもの、今夜の星を解いてくださいまし」  リトは再び夜空を仰ぎ、不動の北極星、黄道上にあらわれては消える惑星の輝き、月の有無とその満ち欠けを探った。それから日の出の時刻の計算も必要だ。星の動きは天文学によって体系化され解明が進んでいる。かの国では、〈星解き〉が政に与することを表立って糾弾する者もちらほら出はじめていた。それでもリトは〈星解き〉であることをやめようとは思わない。知識欲を満たすため、だけではなく……〈星解き〉がこうふくな未来を語る言葉を、待っている者がいるのだ。 「『とき極まれり』」  リトは高らかに宣言する。 「いい風が来ています。何をするにも潮時となるでしょう」 「……それは、あたくしにとって? それとも、この村にとって?」 「皆にとって、です」 「お上手ね」 「なんとでも」
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