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ナターシャがその場でくるりと旋回する。夜着の裾がふわりと浮いて、引き締まった筋肉のうつくしい足が露わになる。
「お礼に、またひとさし舞いましょう。次は舞姫としてでなく、ありのままの、ナターシャとして」
竪琴弾きもいない。手足の鈴もない。打ち鳴らされるのは夜空に反響する手拍子と、砂に埋もれ空気が抜けたような足拍子のみ。彼女のハミングだけが、ひとつのしらべとなって、舞への没入を高めていく。
鳥肌が立った。振り乱す少女の黒髪が闇に溶ける。足拍子に飛び散る砂が星々の欠片となって空に踊る。彼女は本物だった。彼女は今、もはや人ではない。
しゃらり。音が聞こえる。何の音だろう、と耳を澄ます。しゃらりら。鈴の音に似ているが、少しちがう。もっと静謐で、もっと柔くて、なのにつよく揺さぶられる。そこまで思考して、気づいた。星がさざめく音だ。ああ、この村では今宵も星が啼く。
リトは顕現された星神様に、しぜんとこうべを垂れた。それは赦しを乞うようでもあった。禁忌を犯し、国を追われる身となりながらも、星の知識への貪欲さを捨てられなかったおのれの罪を、星神様はお怒りになるだろうか。
没頭するナターシャは、きっとリトのために舞いはじめたことなどとうに忘れているのだろう。流れ者にはそれくらいがちょうどいい。
しゃらり。しゃらりらりら。夜は更けていく。いつもより少しだけ、神聖なさざめきとともに。
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