目に映る世界

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「どうしよう」 サークル所属をしてから最初の問題。 私の状態を伝えるべきか、それとも隠していくべきなのか。 信じてもらえるかということが一番怖いのである。 「奈月(なつき)ちゃん、どうしたのかな?」 ふと、女子の先輩が私に声を掛ける。 その先輩は私をこのサークルに勧誘した人物だ。私が貼り出されていた夜景や天体観測であろう写真を見ていた時に話したことがきっかけなのである。 「え……と、ちょっと……」 「ん?」 私は先輩から目線をそらす。 すると先輩は、ゆっくりと私に近づいて背中に腕をまわした。 「話をしようか」 「はい」 すべてを察することはできないだろう。しかし、私の姿を見て何かを思った先輩は人気のない場所へと私を誘った。 「悩んでいるね。とりあえず言ってみな?」 その先輩しか聞いていないということはわかっていても、言葉は出なかった。 「今の奈月ちゃんは昔の私と同じような顔をしてる」 「昔の先輩ですか?」 「高校の時ね、私は軽音部だったの。今もやってるけどね。その時に一時期、音が聞こえなくなった時があってさ。どれだけ音を鳴らしても自分の音が聞こえない。そんな時の私に似てる」 悲しそうな顔ではなく、先輩は真っ直ぐに私を見て微笑んだ。 まるで、「辛いときは誰かに話すと楽になる」と言っているように。 「星が……見えないんです」 私は先輩に、今の自分がどんな状態でなぜサークルに入ったのかを話した。 そして先輩はこう言った。 「辛いときもあるかもしれない。どうしようもないと思う時もあるかもしれない。もう一度という不安になることも、そうなる時も来ると思う。でもね、私が保証する。諦めない限りきっと奇跡は起こる!」 先輩は両手で、私の両肩を強く叩いた。 痛いと思うと同時に、その痛みは前に進む原動力となるのだった。
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