興味

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 その行為に何の意味があるのかを、私が理解する日はきっと来ない気がしてならない――。  私は小さな古本屋でアルバイトをしている大学生である。  客のほとんど来ない小さな街外れの古本屋の為、来る客は名前を憶えているほどに常連客ばかりで変人ぞろいだ。  その中でも特に変わっている常連がいる。  さて、どこが他の客より変わっているかということを説明させてほしい。  この店は古本屋なので当たり前のように古本の買取もしている。その二十歳すぎくらいのさわやかな青年は毎週決まった曜日の近い時間に本を売りに来る。  冊数はバラバラで、一冊のときもあれば三冊、十冊と様々だが、知る限り、十冊以上持ってきたことはない。  定期的に本を売りに来る客自体を変だというつもりは流石の私でもないのだが、青年は本の査定を終えてからも数時間店内を物色して、売りに来たのと同じ本、ときにはそのまま自分で売った本を買い戻して帰っていく。  買い取りは高くても200円程度。同じ本を買うとどうやっても倍額を払うことになるのに、買い取りをやめようかと訊ねても、嬉しそうに倍額で買い取って帰る。  損をしているのに、毎週毎週楽し気に本を売っては買って帰っていく。  一度だけこの行為について尋ねたことがあるが、彼は只々微笑んだだけであった。  今日は彼が本を売りに来る日だ。そんな事を言っている間にも、ほら――『今日も買い取り宜しいですか??』
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