見てたんだろ

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見てたんだろ

 俺は夜景が好きだった――。  俺には少し特殊といえる趣味がある。それは、テレビの放送終了後に流れる夜景の映像を見るということ。  ほとんど移り変わりのない映像だが、それを眺めるのが好きで、いつも録画してみる程だった。森林の映像でも見るように安らげるものだったんだ。  でもあれは、1年前の夏のこと。熱さと残業の多さから朦朧とした日々を過ごしていた。新聞なんて初めから取ってないし、テレビも見る時間がなく、職場の人間からぼんやりと聞いただけの話。  どうにもテレビ局の近くで新聞配達員の男性が刺殺されたらしいという事件。この近辺、テレビ局といっても何社か存在してるし、自分には関係ないと思い気にも留めていなかったのだけは覚えている。  いつものように通勤のために満員電車に乗っているとすぐ後ろから『あんた、見てたんだろ??』と低い男の声が聴こえたが自分に向けられた言葉だとは思わなかった。  しかし、帰りの電車でも『あのとき見てたんだろ??』と同じ声が聴こえた。それは明らかに自分に向けられた言葉だと思ったが、意味も分からなかったし疲れていたので、家に帰るとすぐに眠ったんだ。  翌日は久々の休日だったことをよく覚えている。  朝から趣味の録画していた夜景映像をまとめて見ていたからだ。夜景を映している定点カメラは様々なところにある。ただ、一本だけおかしな映像が混ざっていた。定点カメラというよりも防犯カメラの映像に近い気と感じた。  そのまま眺めていると、新聞配達員と思われる男性が刺される様子が鮮明に映し出される。ハッとして俺は電話を手に撮ったんだ。  けれど俺はどこにも電話しなかった。理由は玄関の向こう。玄関ポストが開いていてその向こうの暗闇から『やっぱり見てた』という声が響いてきたから。  それ以来、俺はその趣味をやめた。
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