白身の気持ち

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白身の気持ち

 にわとりか。たまごか――。  どうでもいいことを考え続けるのが僕の悪い癖だった。皿が飛び交うのと、暴言が飛び交うのはよくにていて、そんな皿に乗った料理は何処に消えるのだろうか。  そんなことをよく考えている。  熱い気持ちを持っているのに決して沸騰させてもらうことができない出汁の気持ちを知っている人はどのくらいいるのだろうか。  フォークはタップダンスを踊るのが上手く、スプーンはワルツが好き。だから、一人のときは構わないのだけれど、ペアにされると喧嘩が絶えない。  でも結局、二人は踊りが好きなのですぐに仲直りする。  レシピが林檎を投げたのは、料理人が話を聴いてくれないから。それでも、料理人はその林檎をフライパンで受け止めた。それはとてもとても熱く熱せられているから、林檎は叫び声をあげることもできず甘く苦い香りを放った。  あんな風にはなりたくないと願うのは自分がたまごである自覚があるから。  それでもなれることならナイフになりたかった。ナイフならば、きっと誰かを傷付けられると考えてしまう。それにフォークは少し憧れなんだ。けれど、結局僕を手に取ったのはレシピ本を開かない料理人で、きっと聴覚がないのだと絶望する。  レシピに従えば正しい料理ができるのかといえばそんなことはないが、何も知らないよりはましだと思う。  完成された料理は消して消えることがなくて、作った方が悪いのに、責められるのはいつだって皿の上の僕ら。  だから、願ってしまう。せめてと。  もしも次があるのなら、ツノも立たないままのメレンゲではなくて“キミ”と一緒にオムレツになりたいと。
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