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千家要(センケカナメ)
怖くてたまらなくて、僕には先輩たちが何をしようとしているのか理解出来なかったけど、とにかく逃げなきゃいけないっていう事だけは分かった。
「やめろやめろやめろっ! 離せっ!」
捕まれたままびくともしない腕と足をそれでもばたつかせ、泣きながら大声で叫び続けた。
プールサイドには僕の間抜けな泣き声と先輩たちの笑い声が反響していたことだろう。
だけど僕は必死だった。
「泣き顔かわいいけど、いい加減うるさいよっ、痛いことはしたくないんだよ」
そう言って口を塞がれた時、もう駄目だと思った。
「お前ら何をしてる」
その時、低く響く声がプールサイドに轟いた。
僕はあの声を、一生忘れない。
彼を見ると途端に先輩たちは僕から飛び退き、苦しい言い訳をしながらロッカールームに逃げて行った。
僕が彼と一緒にロッカールームに入った時には、先輩たちの姿はどこにもなかった。
「お前、一年か?」
「はい」
僕が着替え終わると、椅子に座るよう促して、ようやく彼は口を開いた。
助けてくれた先輩だけど、正直、前髪の間から覗く鋭い切れ長の目でじっと見据えられると、少し怖くなった。
それに先輩は僕なんかが口をきけるような人じゃない。
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