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穂積高志(ホヅミタカシ)
ボーっとしていたせいで、ドアが開いた音に飛び上がりそうになった。
「あっ、ルームメイトの久喜美波君っ?」
背が高くて筋肉質の彼が勢い良くソファーまで来て僕の側に立った。
「あ、うん」
僕は慌てて立ち上がった。
仲良くなりたいとも思わないけど、衝突やトラブルは避けて上手くやりたい。
「俺、穂積高志、これからよろしくなっ」
穂積君は、眩いばかりの笑顔で僕を見下ろしている。
何がそんなに嬉しいのか、目尻をぐんと下げて綺麗に口角を上げて白い歯を覗かせて。
家族以外の誰かに笑顔を向けられたのは、随分前のことで、どうしていいか分からずに困ってしまう。
「背、高いね」
何か言った方がいいかと思って、そう言った。実際175cmの僕が見上げる程に背が高い。
「そっかなー、ま、よろしくなっ、美波って呼んでいい? 俺は高志でいーし」
「あ、うん」
「じゃ、よろしく」
高志はにかにか笑いながら手を差し出してくる。
その手の意味がようやく分かってためらいがちに手を上げると、遠慮無くぎゅっと強く握られた。その手をぶんぶんと上下に振りながら笑っている高志。
「俺、寮とか初めてだし、いろいろ教えてくれよなっ」
「あ、うん」
なるべく関わらないつもりだったけど。
どうやらそうもいかないらしい。高志は終始にこにこと僕に笑いかけていて、関わりたくない、だなんて言えない雰囲気だし。
実際、そうやって一気に距離を詰められているのに、なせか悪い気分じゃなくて。
不思議だけど。
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