40642021ーTOKYO Olympics

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 それは、横浜の僕の家から浅草に住むじいちゃんの家に車で行く途中の出来事だった。 「本当に大丈夫なの?こんなにコロナが危ないって言ってる時に高齢者の家に行くなんてさ」  僕はそういう、ここ何ヶ月ですっかり常識と化した懸念を運転席の父さんにぶつけた。 「だから母さんとお姉ちゃんは留守番だろ。まあ大丈夫さ。神奈川より東京の方が感染者も多いんだし」  父さんのあっけらかんとした答えに、僕はそんなもんかなあと呟いた。  二年前ばあちゃんに先立たれたじいちゃんは、健康そのもので一人暮らしに支障はなかったけど、父さんは「誰かが話し相手にならないと認知症になってしまうかもしれない」なんて心配してよく浅草に様子を見に行っていた。今日は久々に孫の顔が見たいと言われたらしく、僕も車に同乗したというわけだ。  車は日本橋に差し掛かり、信号の運が悪いのか渋滞でも発生しているのか、なかなか動かなくなった。ぼんやりと窓の外を見ると、歩道の街灯には「TOKYO 2020」のフラッグがはためいている。 「なんか、あの2020って旗、虚しいよね。来年本当にやるかもわからないのにさ」 「今は祈るしかないだろう。父さんせっかく足腰鍛えたのに、無駄になっちゃうのも悲しいしな」 「まあそれはそうだけど」
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