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僕はパニック気味になって、ポスターを指し示した。
「もしかして、今年ってオリンピック?」
「来年だよ」
「あ、そう……だよね」
オリンピックが来年ある。いや、それは、間違いないんだけど。
「変なことを聞くやつだなあ。そんなこと、知らない日本人はいないぞ。やっぱり頭を打ったんじゃないか?どこに住んでる?とりあえず、家に帰れば家族に落ち合えるんじゃないか?それとも、交番、病院……?そうだ、名前は?」
「佐藤拓真」
「おお、奇遇だなあ、俺も佐藤だ。佐藤昭三。よろしくな」
「佐藤、昭三?」
それは、今会いに行こうとしてたじいちゃんの名前だった。いや、まあ佐藤なんてたくさんいるし、たまたま同姓同名ってこともあるだろう。でも、なんだか僕は嫌な予感がしていた。確認するように、僕は自分の思ったことを挙げていく。
「えっと、ここは1963年の東京。来年オリンピックがある。そこの首都高速も、もうすぐつながって日本橋からは空が見えなくなる」
「そうそう、合ってる。合ってるけど、やっぱりなんか言い方が変だなぁ。で、どこに住んでるんだ?」
そう、ここは僕がいたところと同じ「オリンピックの前年」なのだ。
……1964か2020かの違いはあるけれど。
だとすると、僕の家は、たぶんない。あったとしても、ここから横浜に帰る電車はあるのか?野口英世の千円札は使えるのか?
イチかバチか、この人が本当にじいちゃんだったとしたら……
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