5人が本棚に入れています
本棚に追加
「じ、実は、家出してきたんだ。しょ、正三くんの家に泊めてもらえないかな?」
「お前、さっき父さんはって、親の心配してたじゃないか」
「そ、そう。親子で家出。夜逃げってやつ。だから自分の家には帰れないんだ。父さんとははぐれちゃったみたいだし。ね?お願い、頼むよ」
正三はうーんとしばらく考え込んでから、「いいけど」と切り出した。
「母さんに聞いてみないと。門前払い食らうかもしれないけど、そうなったら交番の世話にでもなれ。とにかく行こう」
あ、電話とかLINEで今聞いてくれるわけじゃないのか。そりゃそうだ。
昭三に家の場所を聞いたら、浅草にほど近い下町の一角だという。思った通り、それはまさに僕たちが行こうとしていたじいちゃんの家のある方だった。
そして、なんと日本橋から浅草までの交通手段は徒歩だった。昭三は大学生で、陸上部に所属しているらしい。トレーニングのために東京の町を走っていたそうだ。しかも、来年の東京オリンピックの聖火ランナーにも内定しているという。やっぱりじいちゃんっぽいぞ。でも僕はたちまち疲れて考える余裕もなくなっていった。こんなに長距離を歩くのは初めてかもしれない。息も絶え絶えになりながら、なんとか昭三の家までたどり着いた。
そこで僕の疑念は確信に変わった。ここは、じいちゃんの家だ。僕は自分が知っているよりもはるかにきれいで新しいその家を見て、不思議な感慨に浸っていた。
最初のコメントを投稿しよう!