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中に入れてもらったが、誰もいなかった。昭三いわくお母さんと妹さんがいるはずだったが、二人とも買い物にでも出かけているのだろうということだった。
麦茶しかないけど、とりあえず居間に座ってろよ、と言われた僕は、案内される前に居間に向かった。昭三は「よく場所がわかったな」と目を丸くしていた。僕は、「友達の家に構造が似てたから」と言うしかなかった。
居間の様子は僕が見慣れたじいちゃんの家とほとんど一緒だったが、テレビはブラウン管のレトロなテレビだし、エアコンがなくて扇風機しかなかった。
ふと、僕は部屋の片隅にある仏壇に目を留めた。令和のじいちゃん家にある仏壇には、死んだばあちゃんと、なんだか知らないご先祖様の写真が二、三枚供えてあったけれど、今は写真が一枚しかなかった。あのご先祖様はこの1963年の段階で、すでにご先祖様なんだなあ、とぼんやり思った。
その時、昭三が居間に入ってきた。僕がじっと仏壇を見ているのに気づいたのか、昭三は「それ、俺の父さんなんだ」とつぶやくように言った。
そうだ。どうして忘れていたんだろう。昔、じいちゃんが言ってたじゃないか。
――じいちゃんはな、この写真でしかお父さんの顔を知らないんだ。生まれる前に、戦争で死んだんだよ。
「戦争で……」
「よくわかったな。まあ、この辺は空襲もあったし家族を戦争で亡くしてるやつなんてごまんといるもんな」
「う、うん」
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