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「知ってるか?二十三年前、東京でオリンピックをやるはずだったんだ。父さんはそれの聖火ランナーに応募しようとしてたらしいんだけど、戦争でオリンピックが中止になっちゃって。それどころか、自分が戦争に駆り出されて死んじまった。だから、俺は今回のオリンピックで聖火ランナーに応募した。父さんに見せたいんだ、俺の勇姿を」
ああ、この時代の人たちにとっては、東京オリンピックの重みが、全然違うや。
そんなことを、僕は思った。
じいちゃんが父さんを洗脳した理由が、父さんが聖火ランナーに応募した理由が、今ならなんだかわかる気がした。
その日は一晩昭三の家に泊めてもらったけど、若い頃のじいちゃんとこれ以上一緒にいるのはなんだかよくない気がして、置手紙を残して翌朝早く浅草の家をあとにした。
「ありがとう。僕の名前を、どうか憶えておいてくださいね」
それから僕は、日本橋に戻ってみた。麒麟の像をぼんやり見つめたところで記憶が途切れ、次に目が覚めると白い天井が視界に飛び込んできた。
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