40642021ーTOKYO Olympics

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「拓真!?目え覚ました!?」  聞こえてきた姉ちゃんの声に僕はハッとした。見やると、姉ちゃんが心配そうに僕のことを見ていた。ここは病室のようだ。 「姉ちゃん……?僕、一体……」 「交通事故よ。覚えてないの?ちょっと待って、お母さん呼ぶから」  姉ちゃんがスマホで何かを打ってるのをぼんやりと眺めながら、僕はポツリと言った。 「えっと、姉ちゃんがスマホを持ってるってことは、戻ってきたんだね……」 「やだ。三途の川でも見てたの?それとも頭打って混乱してるんじゃない?」    姉ちゃんの言動に、僕はふとデジャヴを感じて笑みを漏らした。姉ちゃんが不思議そうな顔をするので、「それよりさ、何が起こったの?」と話題を変えた。  姉ちゃんの話によれば、あの時上の首都高速道路を走る車が下に降ってきたらしい。運転手は八十歳のおじいさんで、ハンドル操作を誤ったそうだ。うちの車と前の車が被害にあい、首都高を走っていた運転手のおじいさんだけが亡くなったという。  僕は、目立った外傷はなかったけれど、意識が戻らないのでこの病院に入院していたようだ。  タイムスリップのことは夢だったのかもしれないと思った。でも、夢なんかじゃない。若い頃のじいちゃんの声も、日本橋から浅草まで歩いた道のりのしんどさも、生々しい実感として僕の五感に残っている。  父さんにも、会わせてあげたかったなぁ、若い頃のじいちゃん。 「ねえ、父さんは?」  姉ちゃんが口を開きかけた瞬間、「拓真!」と甲高い声が聞こえた。病室の入り口に母さんが立っていた。 「拓真……!よかった!本当によかった!あなた三日も眠りっぱなしだったのよ!」  母さんは駆け寄ってきてがばりと僕を抱きしめた。苦しかったけど、母さんに抱きしめられるのなんて、小さい頃以来だな、なんて意外と冷静に考えてしまう。  母さんは早口で「交通事故だったのよ」と姉ちゃんと同じ話を始めようとしたので、僕はそれを制して「ねえ、父さんは?」と尋ねた。    すると、途端に母さんと姉ちゃんの顔が曇った。 「お父さんは……明日、集中治療室から出られそうよ」 「集中治療室……?」 「足を大けがして。山場は脱したらしいんだけど、車いす生活になるかもって」  母さんの言葉に、僕の心臓はバクバクと音を立てはじめた。真っ先に思い浮かんだことは「聖火ランナーはどうなってしまうんだ」ということだった。
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