第一章 ~深紅の瞳に囚われて~

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第一章 ~深紅の瞳に囚われて~

 その日、ロザリアの平和な時間は一瞬にして奪われた。  半年に一度、一家で別荘へ遊びに行くのが習慣だった。そして行くたびに必ず、母とかくれんぼをしていた。  ロザリアが隠れるのは決まって、寝室のクローゼットかベッドの下である。  当初は見つかるまで時間がかかったが、彼女が毎回同じ場所に隠れるものだからだんだんすぐに見つかるようになった。  父からは「それじゃあかくれんぼにならないだろう」と笑われたが、ロザリアにとっては母に見つけてもらう方が大事だった。  なぜなら母は見つけるたびにいつも、「探したわ、私のかわいいロザリア」と言って抱きしめてくれるからだ。その時の母の笑顔を見るのが、ロザリアは何よりも好きだった。  ところがその日はどういうわけか、いつまで経っても母が探しに来る気配がなかった。代わりに一階から、争うような声や破裂音が聞こえてきたのである。  ――一体、何が起きているのだろうか?  ロザリアはクローゼットから出て廊下へ行き、階段から恐る恐るリビングを覗き込んでみる。  視界に捉えた光景を見た瞬間、その場から動けなくなってしまった。  そこにいたのは血まみれで倒れた両親と、銃を持った二人組の強盗の姿だった。 (お父さん、お母さん……!)  事切れた両親から目を逸らせないまま、ロザリアは震える手で口元を覆う。 「ったく、何で女まで殺すんだ。売り飛ばせば良い金になったってのに」 「しょうがないだろう。こっちの警告を無視して、妙な真似をしようとしたんだからよ」 「まあいい、金目の物を探してさっさとずらかるぞ。お前、二階を見てこい」  それから程なくして、強盗の一人が階段の方へ近づいてくるのが見えた。 (こっちに来る……!)  もし見つかれば、両親のように殺されてしまうのは間違いない。  ひとまずクローゼットへ隠れようと、ロザリアは急いで踵を返して寝室へ戻ろうとする。  だが、恐怖のあまり足がもつれて、その場で転んでしまう。  その音で気付かれてしまったようで、強盗二人はすぐに階段を駆け上がってくる。  へたり込むロザリアを見るなり、彼らは薄気味悪い笑みを浮かべた。 「せっかくの儲けがパアになったと思ったが、こいつは予想外の収穫を得られたもんだぜ」 「ああ。銀髪のガキなんて珍しいから、間違いなく高く売れるだろうな」  言うが早いか男達は、ロザリアにじりじりと迫ってくる。 「い、嫌……来ないで……!」  ロザリアは泣きながら後ずさった。  次の瞬間、目の前に魔方陣が出現し、魔界に棲むドラゴンのような怪物、ブラキオスが召喚される。 「な、何だ……この化け物は……!?」  男の一人がブラキオスに向けて発砲するが、当然ながら魔獣相手に人間用の銃など通用しない。  ブラキオスはけたたましい雄叫びを上げると、一瞬にしてすぐ目の前にいた男を飲み込んでしまう。 「う、嘘だろう!? こいつ、食いやがった!」  仲間を喰われたことで恐れをなしたようで、男は顔を真っ青にして逃げていく。  不安定な魔力で召喚されたブラキオスは、暴走を始めてロザリア目がけて襲いかかってくる。  止める術を持たない幼き魔女は、どうすることもできず恐怖に慄くしかなかった。
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