第二章 ~散らされた無垢な薔薇~

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 ロザリアが疑問を抱いた瞬間、心の中にモヤモヤしたものが込み上げてくる。  そんな彼女の表情を見たヘルムートは、面白いものでも見つけたように笑う。 「その顔、もしかして嫉妬してるのか?」 「そ、そんなわけ……ないでしょう……」  ロザリアはすぐさま否定するが、なぜか声が変に上擦ってしまう。  するとヘルムートは、ますます可笑しそうに笑った。 「本当に頑なだな。まあでも、そうやって嫉妬するってことは、やはり俺に気があるって証拠だよな」 「だからどうして――……って、ちょっと……何するの!?」  話の最中に突然、ヘルムートに手首を掴まれたかと思いきや、そのまま熱い屹立を握らされた。 「あぁ、いやっ!」  初めて男性器に触れた恥ずかしさから、ロザリアは赤面して再び悲鳴を上げる。 「そういう反応されると、さすがに傷つくんだけど」 「あなたがいけないのよ……!」  ロザリアはすかさず男根から手を離そうとするが、ヘルムートがそれを許さないとばかりに手首を掴んで制する。 「俺がここをかわいがっている間、お前もペニスを扱いていろ」  命令口調で告げられ、ロザリアの中で一気に反感が込み上げてくる。 「だ、誰が……あなたの言うことなんて――……やぁぁぁッ!」  異論は認めないと言わんばかりに、ヘルムートは再び指を動かして花唇を責め立てた。 「あっ、あん、あぁ……ッ!」  治まりかけていた官能の熱が再び込み上げてきて、快楽のあまり下肢がひとりでに慄いてしまう。 (やっぱり自分本位な男だわ……!)  ほんの一瞬でも、ヘルムートに心を動かされた自分が馬鹿みたいだ。  ロザリアは彼を恨みがましく睨みつけるが、当人は素知らぬ顔で蜜壷を弄り続けるばかりである。  ロザリアは諦めたようにため息をつくと、おずおずと男根を撫でさすってみる。  その刹那、雄肉はビクンと跳ねて更に仰角を向いた。 「きゃっ……!?」  よもやそんな風に動くとは思わず、ロザリアは顔を引き攣らせて小さく悲鳴を上げる。  それに対しヘルムートは、微かに息を乱して喜悦の表情を浮かべていた。 「初めてにしては上手いじゃないか。そのまま続けてくれよ」  ヘルムートに言われるまま、ロザリアはたどたどしく扱き続ける。  そのたびに雄茎は小刻みに震えては、硬さと熱さを少しずつ増していった。 (こんなに……大きくなるなんて……)  ロザリアは羞恥心を抱きつつも、硬い漲りを懸命に愛撫していく。 「いいぜ、その調子だ」  ヘルムートは満足げに笑いながら、雌核を愛でるように転がした。 「ん……あぁ……っ」  ロザリアの仰け反りは大きくなり、蜜口から官能の滴りが新たに溢れてくる。無垢な姫洞も、彼女の手に握られた肉茎を欲するように、いやらしく収斂するのだった。 「お前の中、俺が欲しくてたまらないって感じだな」  ヘルムートは嬉々とした様子で花唇全体を掻き乱していく。 「あ、あぁぁッ! 駄目、そんな……激しく……しないでぇ……!」  全身を激しく揺らしながら、ロザリアは一際甲高い声で喘いだ。  快感が強すぎるあまり、意識を持っていかれそうになるが、そんな状況でも雄肉を放さず扱き続けた。  手の中で熱く脈動する男根は、一段と硬くなって先端から先走りが滲み出てきた。  亀頭に触れた際、無色透明の液が指先に付着し、ロザリアは驚いてビクンと身震いする。 「あぁ……何なの、これ……?」 「お前の愛撫が気持ちいいから、我慢できずに出ちまったんだよ」  ヘルムートは更に息を乱しながら、ロザリアの敏感な部分を苛烈になぶっていった。 「あぁぁ! いやっ、いやぁぁ!」  淫靡かつ濃厚な指戯に翻弄され、全身がたまらなく疼いて震えが止まらない。  このまま続けられたら、何もかも壊れてしまいそうで怖いのに、体は一際強い快感を求めているように感じられた。  指戯を繰り返すヘルムートも、恍惚の表情でロザリアの乱れる姿に見入っていた。 「……もうすぐだな」  蜜口をじっくり弄りながら、ヘルムートは意味ありげにつぶやく。  ――何がもうすぐなのだろうか?  その言葉の意味を考えていると、長い指をバラバラと突き動かされる。 「や……あぁ……!」  指の動きを拒むように、ロザリアは太腿を強く合わせた。しかしその際、花唇までもがギュッと窄まり、ヘルムートの指を強く締めつける結果となってしまう。 「俺の指を締めつけるほど、今のが良かったのか?」  彼はからかうように尋ねると、膨れ上がった陰核を執拗に捏ね回した。 「あ、あぁ! そんなに……しないでぇ……!」  ロザリアは全身を激しく痙攣させながら、陶酔しきった表情でイキ声を上げる。  幾度となく快感を与えられ、体の芯が熱く火照っている。  恥裂や雌核は淫らにヒクつき、愛蜜も絶え間なく溢れ出てくる有様だった。 「ほら、気持ちよくイキな」  ヘルムートは優しく耳打ちしたのち、鋭敏な部分を容赦なく責め立てていく。 「あっ、あぁ! あァァ……ッ!」  次の瞬間、高圧電流のような絶頂感が体を突き抜けて、ロザリアは下肢全体を大きく引き攣らせた。  一体、自分の身に何が起きたのかわからない。ただ、今まで感じたことがないぐらい、気持ちよかったのは確かである。  初めて味わう官能の余韻に身をゆだねていると、ヘルムートは静かに指を引き抜いていく。 「あんッ!」  その際、花芽を優しく撫でられ、ロザリアはたまらず嬌声を上げた。 「ロザリアも、もう放していいぜ。そのまま触っていたいっていうなら別だが」  ヘルムートに指摘されるなり、ずっと彼の男根に触れたままだったことを思い出し、ロザリアは恥ずかしさからすぐに手を引っ込めた。 「だからそうやって、嫌そうに放さなくてもいいだろう?」 「別にそんなつもりじゃないわ。ただ、初めて男性器に触れさせられて、恥ずかしかったから……」  ロザリアが頬を赤らめていると、ヘルムートは無言でそっと口づけしてくる。  突然の口づけに胸がドキドキしてしまい、ひどく落ち着かない気分になる。  心を掻き乱されたロザリアは、どうしていいかわからずヘルムートから目を逸らした。  するとすぐに顎を掴まれて、そのまま真正面を向かされる。  深紅の瞳に射抜かれ、ロザリアの心はますますざわめいた。 「何ですぐに目を逸らす?」 「自分でも……よく、わからないの……」  ヘルムートの問いかけに、ロザリアは今にも消え入りそうな声で答える。  決して彼が怖いわけではない。こうして目が合ったり触れられたりするだけで、鼓動が早鐘を打って動揺してしまうのだ。  ヘルムートは優しく微笑みかけてくると、ロザリアの頬から胸元にかけてゆっくり撫でていく。 「……お前の痛みも苦しみも、俺が全部まとめて受け止めてやるから、何も怖がるな」 「え……?」  ヘルムートの言葉を耳にした瞬間、ロザリアは驚いて目を瞠った。 (彼は私の過去を知っているということ……?)  ロザリアにとっての痛みと苦しみは、目の前で両親を失ったこと以外にない。  あの日の出来事はロザリアの心に深い傷を与え、大人になった今でも容赦なく苦しめてくるのだった。 「あなたは……どこまで知っているの……?」  ロザリアは恐る恐る尋ねてみる。  だが、ヘルムートはその問いに答える代わりに、いたわるようにそっと抱きしめてくる。  相手は魔族なのに、どういうわけか彼のぬくもりに安らぎを覚え、ロザリアは広い胸板に頭を預けた。 「今だけは何もかも忘れて、この身を俺にゆだねていろ」  低い声音で優しくささやくと、ヘルムートは濡れそぼった膣口に己の肉棒を宛がう。 「あ……」  亀頭が触れた瞬間、ロザリアの胸の鼓動は早まり下腹部全体が疼いた。  こうして熱を感じているだけで、花唇全体が淫らにヒクつく。まるで雄肉が欲しいと体が訴えているかのようだ。 (私は本当に、彼とつながることを望んでいるの……?)  ロザリアが不安げな面持ちになっていると、ヘルムートは優しく微笑みかけてくる。 「初めてだから怖いだろうが、俺にしっかりしがみついていろ。そうすれば、少しは苦痛も和らぐ筈だ」  ロザリアは無言でうなずくと、ヘルムートの背中にそっと手を回した。  今ので恐怖心が完全に消えたわけではないが、どういうわけか彼に身を任せておけば大丈夫だという安心感が込み上げてくるのだ。  それからヘルムートは、ゆっくりと腰を進めて挿入を開始する。 「ひっ! あぁぁッ!」  今まで体感したことのない痛みと圧迫感が、下腹部全体に容赦なく襲いかかってくる。  長く太い巨根を押し進められているのだ、いくらほぐされたとはいえ隘路が受け入れられないのは当然だろう。 「嫌、早く抜いて……! こんなの……耐えられない……!」  これ以上の衝撃に耐えられそうになくて、ロザリアはすすり泣きながら懇願した。 「大丈夫だ、ロザリア。落ち着け」  ヘルムートは挿入を一旦やめると、なだめるように優しく声をかけて頬を伝う涙を拭っていく。  それだけで体の緊張は和らぎ、ロザリアは少しだけ落ち着きを取り戻す。  その様子を見て安心したのか、ヘルムートは小さくため息をついて微笑んだ。  彼の微笑みを目にした瞬間、ロザリアは胸の高鳴りを覚えて頬を赤く染めた。 「お前のその表情、昔と変わらず本当にかわいいな」  ヘルムートはそっとキスを落とすと、ロザリアの体を気遣うようにゆっくりと挿入を再開する。 「んっ……あぁ……ッ!」  ロザリアは苦しげに喘ぎながらも、ヘルムートに強くしがみついた。  恐怖や緊張が薄れていくと同時に、懐かしさに似た感覚が込み上げてくる。  ――ただしがみついているだけで、なぜこんな気持ちになるのだろうか。  ロザリアは不思議に感じながらも、広い背中に手を回したままじっと耐える。  少しでも彼女の痛みを軽減しようとしてか、ヘルムートは銀色の髪を撫でたりキスしたりしながら挿入を続けた。  自分の欲望に忠実な傲慢な男かと思いきや、こちらが破瓜の痛みに苦しんでいるとこうしていたわってくれる。  ――この男は本気で愛そうとしてくれているのか、はたまた自分を篭絡するための演技なのか……。  一体、どちらが本当の姿なのだろうかと考えていると、ヘルムートは更に奥深くへと突き進んでくる。 「ああ……っ」  たくましいそそり勃ちを埋め込まれ、下腹部全体が灼けるように熱い。獰猛な炎の魔獣を思わせる楔によって、全身を焼き尽くされてしまいそうだ。 「……やっとお前を手に入れられた」  自身の昂りを根本まで挿入したヘルムートは、達成感に満ちた様子でつぶやくと静かに唇を重ねてくる。 「ん……ぅ……」  甘く濃厚に口腔内を舐られ、ロザリアは悩ましげな吐息を漏らす。  そのままじっくり口づけされるかと思ったが、ヘルムートは意外にもあっさり唇を離した。 「動くぞ」  彼は静かにそう告げると、間髪を入れずに腰を動かし始めた。 「あっ! や……あぁ……っ!」  子宮口に硬い亀頭を擦りつけられた瞬間、ロザリアは背筋に甘美な衝撃が迸るのを感じた。  痛みこそなかったものの、突き上げられるたびに疼きが生じ、下肢がひとりでに震えてしまう。 「お前の中、想像以上に気持ちいいな……」  ヘルムートは息を弾ませながら、徐々に腰を強く穿っていく。 「あぁッ! や、あぁ、あぁぁん!」  淫襞を抉られるような抽送に翻弄され、ロザリアは喜悦の悲鳴を上げて何度も身悶えた。  獰猛な屹立を容赦なく穿たれ、隘路がひりひりと痛む。しかし、その疼痛もすぐに快感へと変わり、子宮全体に甘い愉悦が込み上げてくる。  頬を赤く染めて蕩けた表情を浮かべるロザリアを、ヘルムートは熱っぽい眼差しで覗き込んできた。 「あぁ……」  こうして深紅の瞳で見つめられると、やはり胸が高鳴ってしまう。それに加えて今は、淫靡な期待が膨らみ、ますます心が落ち着かなくなった。  ヘルムートはロザリアの銀髪をそっと撫でると、その美しい顔に蠱惑的な笑みを浮かべた。 「色気に満ちたその顔、たまらなく最高だ……。もっと甘く淫らに鳴かせてやりたい……」  ヘルムートは低い声でささやくと、ロザリアの耳朶にそっと舌を這わせた。 「ああっ! そこ……駄目……!」  舌先で耳をくすぐられ、ロザリアは嬌声を上げて体を仰け反らす。  どうやらたっぷり愛撫された影響で、どこを触れられても感じるようになってしまったらしい。 「今のも気持ち良かったか?」  ヘルムートはからかうように尋ねると、再び耳朶を舐ってくる。 「ん……。そ、そんなこと……――ひゃぁ……ぅ!」  ロザリアは喘ぎ混じりの声で否定するも、乳首をつつかれた瞬間たちまち反応してしまう。 「やっぱり体は正直だな」  ヘルムートは弄うように乳嘴を指先で転がしていった。 「やっ! あ、あ、あぁ……ん……」  ロザリアは悩ましげに喘いでは、豊満な膨らみを揺らして仰け反りを強めた。  彼女の煽情的な姿に掻き立てられたようで、ヘルムートは抽送の速度を一段と上げていく。 「ああっ、いや……あぁぁッ!」  全身を大きく揺さぶれ、ロザリアはたまらずヘルムートの体に強く抱きついた。 「そんなに俺を感じたいか?」  彼は意地悪く問いかけながら、硬い切っ先をグリグリと押し当ててくる。  先程までの優しさは微塵もなく、自らの欲望を満たすような苛烈な抽送だった。 「ひ、やぁあッ! もう……しないでぇ!」  陶酔したように頬を上気させながらも、ロザリアは目に涙を浮かべて切実に懇願した。  最奥に灼熱の剛直が当たるたびに全身が慄き、媚肉は疼きを増して淫らにヒクつく。  こんなに何度も獰猛に突き上げられたら、体のみならず理性までもがおかしくなりそうだ。  ヘルムートはロザリアを抱き寄せると、荒い呼吸を繰り返して激しい律動で責め立てた。 「あ、や……ぁッ! あぁぁ! 駄目……おかしくなる……!」  ロザリアは狂ったように叫びながら、彼の腕の中でビクビクと何度も身悶えた。  快感が絶え間なく訪れる中、ヘルムートが不意に小さく呻き声を漏らす。 「――っ!」  その直後、強い一撃を子宮口に叩きこまれた。  腰の動きが止まったかと思うと、雄茎が大きく脈動して熱い迸りを注がれる。 「あ、あぁぁ……!」  ロザリアは甘切ない声で喘いだのち、全身を大きく痙攣させて絶頂に達した。  ようやく全て終わったのだと悟り、熱く火照った体をベッドに沈ませる。  激しい抽送に翻弄されて疲れ切っていたが、不思議と不快感はなく甘い快感で満たされていた。  官能の余韻に浸っていると、ヘルムートが優しい声音でささやきかけてくる。 「……初めてだっていうのに、無理させて悪かったな」  それからまた、そっと唇を重ねられて髪を何度も撫でられる。  その口づけや手つきが何とも心地良く、ロザリアはまたしてもヘルムートに対して胸のときめきを覚えた。  ――この気持ちこそ、彼に恋心を抱いている証なのだろうか?  だが、今は初めての情交で疲れて意識が朦朧としており、何も考えることができなかった。 「俺がずっとそばについているから、今日はもうゆっくり休め」 「え……?」  ヘルムートのその言葉に、ロザリアは一瞬だけ何かを思い出しかけた。  しかし、彼はそれ以上何も語ることはなく、ただ黙って優しく口づけを落としてくる。 柔らかい唇が触れた瞬間、強い眠気が押し寄せてきてそのまま夢の世界へと誘われた。  先日、十八歳を迎えたばかりのロザリアは、見違えるほど美しく成長していた。  人間界で久しぶりに再会した時、ヘルムートは彼女の美貌に惹きつけられすっかり魅了された。同時に、他の男に渡したくないという独占欲も強くなり、こうして自身の城へ連れ帰るに至ったのである。  やや強引だったかもしれないが、こちらは十三年間も待ったのだ。それに、大人になったら迎えに行くという契約だって交わしている。  もっとも、ロザリアは何も覚えていないようだが。 (まあ、あんなことがあったら仕方ないか……)  当時、まだ五歳だった彼女は目の前で両親を殺された。年端もない子供にとって、あれほど酷なことはないだろう。  その際、ロザリアは感情のままに魔力を暴走させ、無意識のうちに魔獣を現世に呼び出してしまった。  当然ながら不安定な魔力では制御できる筈もなく、魔獣は術者である彼女にも襲いかかった。  その危機を救ったのが、他ならぬヘルムートである。  偶然にも前日、ロザリアから魔力を分けてもらったので、すぐに駆けつけて救出することができた。あの日のことがなければ、ロザリアを救えなかったどころか、愛という感情を知ることもなかっただろう。 「――っ!」  昔の古傷がズキズキと痛み、ヘルムートは顔をしかめて右腕を押さえた。  戦いに明け明け暮れた日々を送っていたので、体には無数の傷跡が残っている。そのほとんどはすでに薄くなったものの、ロザリアを守った際に負った傷だけは未だに疼く。  先程の情交の際、ヘルムートが服を脱がなかったのは、彼女に辛い記憶を呼び覚まさせたくなかったからだ。  十三年が経った今もまだ、ロザリアは両親の死から立ち直れていない。そんな彼女に傷を見せていたら、余計に罪悪感を抱かせてしまっていただろう。  傷の痛みが引いたところで、ヘルムートは眠っているロザリアを見やる。  大人になってから感情を表に出さなくなった彼女が、行為の最中に戸惑いながらも少しずつ快感に溺れる姿はこの上なく美しかった。  まだ処女だからと気を遣うつもりだったが、気付けば夢中になって抱いてしまったほどである。  そのせいで、ロザリアに嫌われてしまったのではないかと懸念したが、幸いそんな素振りは見せなかったのでひとまず安堵した。  だが、ロザリアが本当にヘルムートを受け入れるようになるには、まだまだ時間がかかるだろう。  行為の最中、彼女の紫の瞳に恐れが浮かんでいたのを、ヘルムートは見逃さなかった。  あれは抱かれることに対する恐怖ではなく、相手に心を許すことを恐れている目だった。  ロザリアがあんな目をするようになったのも、十三年前の悲劇が原因であることは明白である。  ――どうにかして、彼女の心を開くことはできないものだろうか。  たとえ体を手に入れられたとしても、愛する女の心を掴まなければ意味がない。  せっかく契りを交わすのであれば、やはり互いの想いが通じ合っているほうがいい。 (半ば強引に連れてきた挙句、純潔を奪うような真似をしておいて、何を考えているんだか……)  こんな悪魔らしかぬ考えを抱くようになったのも、ロザリアに嫌われたくないという思いがあるからに違いない。  そんな気持ちにさせてくれる彼女がとても愛しくて、つい良からぬことを企んでしまいそうだ。  込み上げてくる欲望をどうにか抑えると、ヘルムートは静かにロザリアの体に覆いかぶさる。 「……お前の痛みも苦しみも、俺が全部まとめて受け止めてやる」  恋をした時からずっと変わらぬ想いを伝えると、眠っている彼女の額にそっと口づけた。
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