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今宵は月が綺麗です
人混みをすり抜けて改札を抜けると、後ろから腕を引っ張られた。驚いて、咄嗟に振り返ると、薄ら笑いを浮かべる馴染みの顔があった。
「なんだ、史君か。びっくりさせないでよ」
平静を装ってはみるものの、私の正直な心臓は鼓動のスピードを一気に上げた。
黒髪に、やんちゃそうな少年時代の面影を残して大人になったこの男の名は、成田史哉。
同級生かつ、家が隣のこの幼馴染は、何を隠そう私が長年想い続けている人物だったりする。
もちろん、年齢=想っている年数っていうほど純愛ではないけど、思春期に入ってからは、史君への想いを乗せた列車を彼に向かってずっと走らせてる。正直にいえば、幼馴染との成就なんて、漫画の世界だけのファンタジーなんじゃないかと思って、脱線したり、運休することもしばしばありはしたけれど。
だけど、大人になって、気持ちなんて、結局は自分ではコントロールできないものだと悟ってからは、史君行きの列車は、緩やかなスピードでずっと走り続けてる。
だったら、告白すればいいのにって? でも、それはできない。だって、玉砕するのは分かってるから、わざわざ微妙な関係にはなりたくないの。
史君の歴代の彼女は、全員把握しているわけじゃないけど、何人かは見たことがある。みーんな、可愛い子ばっかりで、爪も綺麗にネイルしているような女の子。
私はといえば、マニキュアでもしようものなら、実験の試薬ですぐに落ちるし、それが逆にコンタミになっちゃう場合がある。つまり、私はマニキュアなんて御法度の世界で生きる人間。
∴ 史君の好みとは真逆 //
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