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「言ってることは分かるけど、どうして、私が史君を好きじゃないなんて思うの? そんなそぶり見せたことないのに」
「だって、お前、いつも勉強が、研究がって言ってただろ? だから、俺だけじゃなくて、恋愛そのものに重きを置いてねーかなって」
「だって、そうしないと、気持ちがダダ漏れになっちゃうから!!」
「……マジ?? けど、俺もそんなの知らねーから。でも、今回の海外宣言はさすがに焦った。どっかで、安心してたんだな、家が隣ってことに」
すると、史君は、顔からぱっと手を外し、子供の頃を彷彿とさせる無邪気な笑顔を向けてきた。
「だから、今日の紗英の告白はすっげー嬉しい。いつから? いつから俺のこと好きだった?」
「……答えられない。ずっとだよ、ずっと」
「本当かよ? 夢じゃないよな?」
そうだよ――と返事をしようとしたら、私の両頬がむんずとつねられた。
「ふひふん、なにふふほ」
「いや、夢じゃないか確かめるのに、自分のをつねろうとしたんだけどさ、目の前につるんとした気持ち良さそうな肌があったから……つい」
悪い、と言いながら手を離すと、史君は立ち上がり、私にすっと手を差し出して一言告げた。
「紗英、俺と結婚を前提に付き合ってくれる?」
「は、はい」
私は、間髪入れずに、その大きな手を取った。冗談、なんて、またはぐらかされないように。
「よっしゃ!」
その瞬間、私はぐいっと引っ張り上げられ、いつの間にか、史君の隣に並んで立っていた。なぜか、右手同士で握ったはずの手は、史君の左手と私の右手に変えられて。
再び歩き始めた途端、史君がつと立ち止まる。
「今度は何?」
「あのさ、気が早いって思うかもしれねーけど、今日の結果、合格だったら、すぐ籍入れねぇ?」
「えっ、離れちゃうのに?」
「離れるからだよ。夫婦になっておけば、それより強いことはない。なにかあってもすぐにかけつけられる。それに……」
「それに?」
「実はうちの会社、配偶者同行休業制度ってのがあって、要は休職して相手の赴任先についてくシステムなんだわ。だから、結婚してたら、後から俺も合流できるかも。そしたら、なっがーいハネムーン、ゲット!どう??」
史君が、口角をにぃとあげながら、白い歯をこぼした。
神様、こんな幸せがあってもいいのでしょうか。
小島 紗英 二十七歳、人生もお肌も曲がり角でしたが、そこにもちゃんと福は来てくれるようです。
「最高!」
私はオレンジ色の空に向かって大声を上げた。
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