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「また、またぁ。日本屈指の商社勤めが、そんな世知辛いこと言わないでよ。それに、史君なら、すぐに自分の式で取り戻せるでしょ」
あぁ、我ながら、どうしてこうも自分で自分を苦しめるようなことを口走ってしまうんだろう……。こんなことを言って、来年あたりな、なんて返された日には落ち込むのが目に見えてるのに。
いや、逆に、ばすっと言ってもらった方が、踏ん切りがついて、面接に打ち込めるかも?!
それなのに、史君ときたら、
「……そんな相手、長いこといねーよ」
と、耳を疑うようなことをぽそっと呟いてきた。
「そ、そうなの? だって、彼女いっぱいいたでしょ?」
「いっぱい……じゃないけどな。けど、うまく行かない。いつも、他に好きな人がいるでしょって言われて、俺も違うって否定してやれなくてフラれる」
好きな人――。史君から、そんな単語を聞くのは初めて。もっと追求しようとしたら、先に史君が話し出して、会話の主導権を握られた。
「なぁ、まだ歩く気力残ってる? バス、この時間になったらなかなか来ないし、歩いて帰らねぇ?」
「いいけど、重くないの、それ?」
私は、引き出物を指差した。
「重いのぶら下げてバス待つより、動いてた方がいいから平気」
スニーカー万歳。こんな風に、史君と話しながら歩くなんて、何年振り?!
思わぬ夜の散歩に、私は胸を高鳴らせた。
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