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幕間、生駒の方
この話は仁が根来、伊勢長島を攻める前の話である。
ある日、義兄の信長に呼びつけられた。
「駒だ」
其処には羽毛布団に横たわる女性が居た。体調が悪いのか息はか細い。
「初めまして…只野様…」
駒と呼ばれた女性は起き上がろうする所を信長が支えて起き上がるのを手伝って居る。
「駒、無理をするな」
「いえ、貴方様。今日は少し気分が良いので」
信長の駒の方を見る視線はとても優しい。
普段からジャイアニズムを体現した信長とは思えない位、駒の方に気を使って居る。
「それで、俺を呼びつけた理由は何ですか?」
俺は信長に問う。
「うむ、熊ならば南蛮から良い薬を仕入れられないかと思ってな。見ての通り駒は身体が弱い。産後の肥立ちが悪くてな常に伏せって居る。熊よ駒の身体に良い薬は無いか?」
俺はツクヨミ様との話を思い出す。
『魔法の品を作れるようになったよ』
俺は脳内で幾つか検索を掛けたら、一つヒットした品物があった。
『変若水』
飲んだ者を全盛期の肉体に持って行く伝説の飲み物。
俺はう~んと悩んだ。
此れをみだりに与えて良い物か?
「その顔は何か当てがあるようだな」
おっと義兄にはお見通しか。
「ええ、当ては有ります」
「真か!」
信長が俺の肩をがっしりと掴む。
「頼む!医者は匙を投げた!熊しかもう頼れる者はおらん!」
何時になく必死になる信長を見て俺は、まあ良いかな?との気持ちになる。
「生駒の方はどう思って居るので?」
俺は生駒の方に質問する。生駒の方の返答次第では変若水の提供は断ろうかと思って居るからだ。
「…私は幸せ者です。こうして好いた方と一緒に居られるのですもの。
それだけで十分です。ただ望めるならもう少しだけ好いた方と同じ時を過ごしたいです…」
「………良し分かりました。
我が一族に伝わる最後の秘薬を試して見ましょう」
「真か!?」
「ええ、もう二度と作る事は不可能ですが後一回分は残ってます」
信長の目に希望が灯る。
「それで駒が治るなら頼む!我に出来る限りの礼をする!」
「生駒の方が治ってから礼は考えましょう。まだ効くとは決まった訳では有りません」
俺は懐に手を入れて創造の能力を発動させる。
小さな瓢箪を創造して、その中に変若水を創造して行く。
うむ、上手く行ったようだ。
俺は懐から瓢箪を取り出す。
「此れを生駒の方に」
信長は俺から瓢箪を奪うように引ったくると恐る恐ると瓢箪の蓋を開けて、生駒の方の口の方へと持って行く。
生駒の方がゆっくりと変若水を飲んで行く。
すると、ゆっくりと生駒の方の頬に紅がさして行った。
「ああ…とても楽に成りました。こんなに健やかな気分は何時ぶりでしょう…」
「本当か!?駒!」
変若水の効果は肉体を全盛期に持って行くからな。効果は名前通りだろうさ。
信長は政務が貯まって居るので一旦、岐阜へと帰った。
俺は生駒の方の健康状態をより良くする為に食事療法と運動療法をする為に残る事になった。
食事療法と運動療法を取り入れる事によって、生駒の方はどんどん元気になった。
そう、どんどん元気になった…
ズシャアッ!
信長は元気になった生駒の方を見て、膝から崩れ落ちた。
「姉さん!キレてますよっ!!」
其処には黒光りする鋼の肉体をムン!とポージングする生駒の方が居た。
「貴方様、今日は寝かせません」
「あああああぁぁぁぁ!」
生駒の方は信長の首ねっこを掴んで行くと奥に消えて行った。
「めでたしめでたし」
俺はそれを見届けると飛ぶように伊勢に帰って行った。
「愚弟の馬鹿はどこだっ!!」
数日後、目をギラギラさせ両肩に鉄砲を装備し槍を持ちフルアーマー状態の信長が現れた。
「殿は一つなぎの財宝を探すと言って旅に出ました」
その場にたまたま居合わせた増田長盛が答える。
けれども、光秀の密告で仁の居場所は直ぐに割れ。
伊勢の町に連続した鉄砲の音と、必死で覇王のオーラを漂わせた信長から逃げる仁の姿があったそうな…
めでたくもめでたくもなし
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