毛利軍の本気

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毛利軍の本気

一ヶ月、ぶっ通しの殺人スケジュールをこなして松永久秀のコーヒーを飲んでまったりとしてる中で、一通の手紙が届く。 義兄からの手紙だった。 手紙には一言『安土にて待つ』だった。 俺はバタりと倒れる。 「俺隠居するわ」 「何を戯けた事を言わないで下さい」 すっかり堅物と化した三成の言葉だ。 「大殿は一族の力が弱いのですから、まだまだ現役で頑張って貰いますよ。側室もどんどん入れたい位ですからね?」 う~む、三成が厳しい。 俺は重い腰を上げて安土へと単身向かった。 「戯け、供くらい付けんか」 安土に着いての義兄のひとことが此れだった。 「お前は最早、関東を抑える大大名だぞ。何時までも身軽な立場では居られんぞ」 義兄の説教は続く。 「所で今日はまた、どうして呼んだのです?」 「猿の援軍に向かってくれんか?今は上月城で毛利を抑える為に動いて居る」 尼子関係ですね、分かります。 となると相手は毛利を代表する吉川元春が相手か… 「北条を平定したお前にしか毛利の相手は出来ないと思って居る」 「相手は中国地方の覇者ですよ。買い被り過ぎですよ」 「それでも毛利を打ち破って欲しい。上月城を与えた尼子をこのまま滅ぼされて欲しくは無い。 何より猿にはいささか手に余る」 信長は茶をたてると俺の側に置いた。 「相変わらず義兄のお茶は旨いっすね」 「お前も茶を学べは良い」 「いや、俺は松永が居ますからね。旨い茶とコーヒーは松永と義兄に任せます」 信長は苦笑してお代わりのお茶を差し出す。 「やはり熊は熊よ」 さて、安土を後にして俺は伊勢に向かった。 只野軍を迅速に編成して上月城に向かわなければ成らない。 向かうは播磨だ。 手紙も書いて江戸に送る。 援軍をするなら徹底的に、次々に手紙を書いて各地に送り軍勢を組織する。 取り敢えず、伊勢の一万五千の軍を三日で組織して播磨へと俺は向かう。 後は次から次に家臣達が軍勢を引き連れて向かってくれるだろう。 俺は一万五千の軍勢と共に駆け足気味に播磨の上月城へと向かった。 その頃の尼子勝久と羽柴秀吉はと言うと… 「尼子殿、此処は退くべきだぎゃ!」 「いや、我等尼子は毛利と戦う」 秀吉はイライラしながら、なおも言う。 「無理だぎゃ!吉川元春が出てきたぎゃ!毛利は本気だぎゃ!」 「羽柴殿、我等はもう逃げたく無いのです」 静かに尼子勝久は言う。 横で山中幸盛が静かに頷く。 この山中幸盛、別名山中鹿之助。 我に七難八苦をで有名な武将であり、猛将と呼ばれる武将で有る。 毛利軍に捕らえられるが、見事に逃げ出して尼子家再興に力を尽くすが最後は惨殺される。 尼子勝久と羽柴秀吉が議論をして居る頃に伝令が来る。 手紙は羽柴秀吉宛だった。 「こんな時になんだぎゃ!」 秀吉は乱暴に手紙を読む。 手紙を読むと秀吉はふるふると震え出し最後はガッツポーズを取る。 「よっしゃあ!この戦、勝ったぎゃ!」 秀吉の剣幕にやや押される尼子勝久。 「羽柴殿、勝ったとは?」 「只野軍が来るだぎゃ!」 「何と!あの只野軍が!?」 尼子勝久は驚愕する。 あの武田信玄を降し、更には北条を降した只野軍が援軍に来ると手紙には書いて有るのだ! 秀吉が興奮するのも頷ける話であった。 「勝てる!この戦勝てるぎゃ!我等は城に籠って只野軍の到着を待つだけだぎゃ!」 「おお…」 絶望的な中で灯る希望の火、二人はそれから籠城に徹して只野軍の到着を待つ。 上月城が見えて来た。共には可児才蔵と真柄直澄の二人に軍の指揮を預かる島左近である。 「ありゃ陣城だな」 俺はじりじりと間隔を狭めて来る毛利軍を見てそう呟く。 鉄砲戦術に対抗して、土壁を作りながら毛利軍は進軍して居るのだ。 だが、今回は鉄砲の出番は余り無いかも知れないな。此方には新兵器の迫撃砲が有るからな。 構造は単純、筒に弾薬を込めて打ち出すだけ。 砲兵では無く、数人の歩兵で運用出来るのが強みだ。 此れも只野軍独自の技術だ。 まあ、迫撃砲自体は現代より世界大戦の時に有名かな? 今回は対毛利用に迫撃砲の雨をプレゼントしてやるぜ! 上月城は現在は攻められて居るので先ずは鉄砲隊で毛利軍を追い払う。 「撃てえぇぇい!」 パパーン!パーン!パパーン! バタバタと毛利軍が倒れて行く。 すぐに毛利軍は対応して土壁の裏に隠れる。 「迫撃砲撃てえぇぇい!」 ヒューン…ボンッ! 土壁に隠れる毛利軍に迫撃砲の弾丸が当たる。 ボヒュッ! 「ぐあああ!」 「いてぇ!」 「あ、足が!」 悪いな此れも戦だからな。容赦無く上月城に近づく毛利軍を迫撃砲で爆撃して行く。 上月城から毛利軍がある程度退いた所で只野軍が上月城に入る。 羽柴軍と僅かな尼子軍が歓声で出迎える。 「良くぞ来て下さったぎゃ!」 秀吉はその猿顔をくしゃくしゃにして喜ぶ。 「此れがあの只野軍…」 ほぼ無傷で完勝した只野軍を見て戦慄する尼子勝久と山中幸盛。 俺は三人を伴って上月城の評定の間へと向かった。 上座に案内されて俺は上座に座る。 「良くぞ来てくれました。この尼子勝久、感謝の念に絶えません」 「折角、再興した尼子家を潰す訳には行かないからな。それに報酬を欲しいしな」 「はて?この尼子に只野様が欲しいと思う物は無いと思いますが?」 尼子勝久がしきりに首を捻る。 「俺が欲しいのは山中幸盛だ」 ざわざわざわと評定の間が喧騒に包まれる。 「尼子家の再興には只野家も力を貸す。ゆえに褒美は山中幸盛が欲しい」 尼子勝久と山中幸盛が互いに見て答える。 「その事が事実ならば、この山中幸盛。只野様に仕えますが何か証拠が欲しゅうございます」 山中幸盛が答える。 「文に記そう」 「はっ、有り難き幸せ」 直ぐに文に記して俺は判を押す。 此れで山中幸盛が只野家に来てくれるようになったな。 「じゃあ毛利にはお帰り願おうか」 俺は笑顔で答えると直ぐに出陣した。 「久しぶりの突貫だ二人とも着いて来いよ!」 「あいよ!大将!」 「はっ!お任せあれ!」 可児才蔵と真柄直澄が答えて俺は軍を引き連れて毛利軍に突貫する。 兵の練度の違い、武具の違い、何より兵の勢いの違いが如実に現れる。 直ぐに毛利の陣城を突き崩し、毛利の軍を蹂躙し始める。 迫撃砲が音を立てて毛利の陣を崩し、現れた毛利兵に鉄砲の雨を降らせる。 俺を先頭にして毛利の陣を斬り裂く! 青龍偃月刀を縦横無尽に振りながら俺達は進む。 真柄直澄が太郎太刀を抜いて近くの毛利兵に斬りかかる。 可児才蔵がその自慢の槍で次々に毛利兵を串刺しにして行く。 その後に続くは只野軍。 あっと言う間に毛利軍は劣勢にたたされる。 「あれが吉川元春の陣幕か」 俺が青龍偃月刀を振りながら答える。 「はっ、間違い無いかと」 渡辺守綱が答える。 「よっしゃ、じゃあ吉川元春に挨拶して帰るか!」 俺達は吉川元春の陣へと突入する。 其処には歴戦の雰囲気を漂わせた武将が数十人の供回りに守られながら居た。 「良くぞ来られた只野殿!」 吉川元春が俺に言う。 「顔を拝みに来たぜ!今退却するならば我が軍は毛利軍を追わない」 「ほう?我等毛利を見逃すと?」 「今は見逃す。これ以上、上月城を攻めてもこの俺が居る限り攻め落とすのは無理だと知れ」 「確かに我が軍の被害も尋常では無い。このまま見逃して貰えるのは有り難い」 吉川元春が苦々しげに言う。 「どうする?俺はこのまま戦っても良いんだぜ?」 「いや、毛利は手を引く」 吉川元春は短くそう告げると撤収の準備をする。 「良い判断だ」 俺は全軍に撤退の合図を出す。 俺は上月城に戻って事の次第を話す。 「後は羽柴殿次第だな。頑張れよ」 「只野殿には感謝だぎゃ!」 秀吉が抱きつきそうな勢いで答える。 「尼子殿、約束通りに」 「うむ、山中幸盛を宜しく頼みます」 尼子勝久が頭を下げる。 「只野様、いや大殿。宜しくお願い致します」 こうして史実では上月城で降伏した尼子を救って尼子は健在する事になった。 後は秀吉に任せて俺は江戸へと帰って行った。
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