毛利征伐

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只野軍三万五千の兵が備前に着くと毛利軍はするすると退いて行った。 その退き際の見事さに「流石は毛利の両川」と俺は評価を改めなければ成らなかった。 「いやぁ、良くぞ来てくれました。只野殿!」 秀吉が大手を振って俺を呼ぶ。 俺は赤兎を走らせて秀吉の側に行く。 「羽柴殿、難儀してるようですな。流石は中国の覇者、毛利ですな」 「いやいや、厄介なのは毛利の両川でずだぎゃ!しかし、此方は堀久太郎殿と宇喜田直家殿が居ます。互角の戦いだぎゃ!」 「では我が軍が大いに暴れますか」 「四国での電撃戦は既に聞いておるだぎゃ!毛利も只野軍が現れたら警戒して退いて行っただぎゃ!」 俺は表情を引き締める。 「我が軍の新兵器もあります故に此れ以上は毛利の好きにはさせませんよ」 「頼もしいだぎゃ!早く毛利と決着を付けて、ねねの尻を撫でたいだぎゃ」 「そんな羽柴殿には此れを上げましょう」 俺は懐からエリクサーを二つ取り出す。 ねねさんとの間に子が出来ないのはどちらかに身体的問題があるに違い無い。 エリクサーならば治療が可能だ。何せ万能薬だからな。 「おお!?これは何だぎゃ?」 「子作りを助ける為の薬ですよ」 「おお!それは有り難いだぎゃ!帰ったら直ぐにでも試して見るだぎゃ」 「効果は保証しますよ。さあ毛利との戦を終わらせましょう」 後に領地に帰った秀吉はエリクサーをねねと一緒に飲んで子作りした結果、見事にねねは懐妊し一男二女をもうける事になる。 秀吉、頑張り過ぎだろ。 さて、一旦は撤退して行った毛利だが援軍を呼んで備前の地へと帰って来た。 その援軍だが今回は毛利輝元も出て来てるようだ。毛利本隊の旗が見える。 「毛利め、この地を決戦の場へと決めたようだな」 羽柴軍八千に宇喜田軍六千、信長の直轄の堀久太郎の一万、そして俺の三万五千の軍。合わせて五万九千の軍だ。 備前の地を決戦と選んだ毛利は五万の大軍を引き連れての出陣。 兵力は此方が、やや有利しかしどう転ぶか分からないのも戦場あるあるだ。 「毛利本隊が厚いな」 「先ずは鉄砲で削りましょう」 光秀が進言する。 「うむ、先ずは先制攻撃だな」 「はっ!」 光秀が鉄砲隊の指揮に戻る。 「全登、光秀の補佐に回れ。只野家の鉄砲隊の凄さを経験して来い」 「はっ」 明石全登は静かに光秀と所へ向かう。 さてと、毛利との決戦だな! 小早川軍が羽柴軍とぶつかり会う。最初は鉄砲の撃ち合いのようだ。 堀久太郎の軍と宇喜田直家の軍が猛将、吉川元春の軍とぶつかり会う。 堀久太郎が鉄砲の連射を行い、それを宇喜田直家の指揮する軍が横あいから吉川軍にぶつかり会う。 勝負は一進一退の攻防をして居る。 こうなると俺の軍が自由になる。良いのか?毛利にとって尤も厄介な敵が自由になるぞ? 毛利本隊は厚い陣を引いて防御の構えを見せて居る。 ふむ、三方同時に戦を仕掛けて見るか? 「歩兵部隊は毛利本隊を狙え!手榴弾の使用を許可する!」 オオォォー!と声が上がる。 「光秀の部隊は小早川隆景の軍を狙え!羽柴を助けてやれい!」 光秀の率いる鉄砲隊が小早川軍の横から鉄砲の一斉射撃を開始する。 まさか只野軍が毛利本隊を攻めずに此方に来るとは思って無かったのか、小早川軍の動揺が激しい。 「光秀、そこそこにしとけよ」 俺は一人そう呟くと可児才蔵と真柄直澄と三千のスパルタ兵と榊原康政が指揮する騎馬一千を引き連れて、猛将吉川元春の軍へと突撃して行く。 「先ずは騎馬の突撃」 榊原康政が雄叫びを上げて吉川元春の軍へと突撃して行く。 此れに驚いたのは吉川軍だ。 堀久太郎の軍と宇喜田直家の軍に掛かりきりなのに只野軍の騎馬隊千が突撃して来たからだ。 ズシャアァッ!と吉川軍が真っ二つに斬り裂かれて行く。 そこへすかさずスパルタ兵の三千が突っ込み戦場を引っ掻き回す。 「たまらねぇな!右も左も前も敵だらけだぜ大将!」 「才蔵!あまり前に出過ぎるなよ!」 「分かってらぁ!お行儀良くなぁ!」 才蔵の槍が次々に毛利軍の兵士に突き刺さる。 「拙者も暴れますぞ!」 真柄直澄の大太刀が毛利兵の何人かを巻き込む。 俺も赤兎に股がり青龍偃月刀を右に左へと振り回して敵兵を次々に血祭りに上げて行く。 そうこうしてるうちに榊原康政の騎馬隊が戻って来て更に吉川軍に打撃を与えて行く。 「うお!流石は只野軍!流石は只野殿ですな!私も負けてられん!忠家!突っ込むぞ!」 宇喜田軍が猛然と吉川軍に突撃して行く。 「我が軍も負けていられんな。この堀久太郎に着いて来い!」 堀久太郎の軍も負けじと吉川軍に突撃して行く。 猛将吉川軍であったが流石に三方向からの攻撃、特に只野軍からの攻撃がひどい。 只野軍の勢いに押されてみるみる戦線を後退させて行く。 ある程度、吉川軍に損害を与えて宇喜田、堀軍の有利に戦場が傾くと只野軍はサアーと退いて行った。 只野軍が抜けても勢いを増す堀久太郎の軍に宇喜田直家の軍に吉川元春の軍は戦場からどんどん押し出されて行った。 その頃の明智光秀はと言うと… 「鉄砲は三段の構え、放て!」 二万の鉄砲隊が順次、撃たれて行く。 此れにはたまらず小早川軍は防御一辺倒になって行く。 そこを見逃す秀吉ではない。 「そこだぎゃ!」 秀吉は少ない鉄砲を駆使して的確に小早川軍に打撃を与えて行くのだった。 防御一辺倒の小早川軍だが何とか挽回しようと自軍の鉄砲隊を明智光秀が操る鉄砲隊へと向けて放つ。 しかし、悲しいかな。小早川軍の鉄砲は旧来の鉄砲、只野軍の鉄砲は数世紀は先に行って居る鉄砲。 飛距離も威力も段違いである。 小早川軍は櫛がポロポロと取れるように崩壊して行く。 「がはっ!」 その時、只野軍の鉄砲が小早川隆景の右肩を貫く。 たまらず馬から転がり落ちる小早川隆景。 「殿が負傷されたぞ!」 「誰かお助けしろ!」 小早川軍の大将である小早川隆景が負傷した事により、小早川軍は混乱に陥る。 「この辺りで良いでしょう。一旦、鉄砲隊は退きます」 光秀がそう言うと只野軍の鉄砲隊は退いて行く。 主、只野仁と合流するために。 「追撃は宜しいのですか?」 光秀の補佐に回って居る明石全登が光秀に質問する。 「あまり只野家が目立ってしまえば織田家の家臣の面目が立ちません。程々で良いのですよ。程々で」 そう言うと光秀は速やかに仁と合流するべく兵を率いて行く。 そして、一万一千の歩兵を引き連れた浅井長政はと言うと… 「陣形を整えて進め!敵は目の前だぞ!」 魚鱗の陣形で毛利軍本隊へと進んで行く。 それを厚い守りで行く手を遮る毛利軍。 「よ~し、良いぞ!敵が固まって居る所を狙え!放てぇっ!!」 ある程度の距離がついた時点で手榴弾のピンを抜くと一斉に手榴弾が放たれた! ドガガガッ! 一万一千の手榴弾が猛威を振るい毛利軍を吹き飛ばして行く。 只野軍を警戒し、隊列を厚くした事が裏目に出て毛利軍本隊に甚大な被害を与えて行った。 「ようし、一旦離脱して陣形を整えて再度、突撃だ!」 浅井長政は焦らない。 何故なら戦場に只野仁が居るから、只野軍は常勝軍だから、自分は只野仁に任されてこの一万一千の軍を任されたから… 故に長政は虎視眈々と毛利軍本隊が崩れるのを待つ。 なあに、敵の大将を殺せとは言われて無い。 焦らずに毛利軍が退却するのを待つさ… 「長政は上手い事やって居るようだな」 見ると浅井長政の指揮する軍は素早く接近しては手榴弾で一撃、離れて隊を整えては接近して手榴弾で一撃と堅実な戦いをして居た。 手榴弾の攻撃を受ける毛利兵はたまった物ではない。 何か棒状の何かが飛んで来ては、いつの間にか此方が吹っ飛ばされ居るのだから。 毛利軍本隊に混乱に混乱が訪れる。 「勝機ありだな」 俺がそう呟くとガガーンと光秀の指揮する鉄砲が唸りを上げて毛利軍本隊に襲い掛かる。肝心の小早川軍は小早川隆景の負傷に羽柴秀吉の猛追を受けて立ち直れない。 吉川元春の軍はそもそも毛利軍本隊を助けに行こうにも宇喜田直家と堀久太郎が邪魔をして行けない。 只野仁の率いる攻撃が今になって響いて来て居る。 光秀が更に鉄砲の一斉射撃を行う。 みるみる数を減らして行く毛利軍、追撃をタイミング良く掛ける長政。 光秀と長政は互いに連携して毛利軍を追い詰めて行く。 すると毛利軍本隊から鏑矢が放たれる。 「敵は撤退するぞ!一気に喰らいつけ!」 長政が待ってましたと言わんばかりに叫びながら追撃の命令を出す。 そして、撤退の命令を受けても撤退出来ない毛利の両川。 「報告!小早川隆景が降伏しました!」 「報告、吉川元春を捕らえました!」 この戦、勝ったな。 「ご苦労、両名に会わせてくれ。ああ、それと長政には励めよと伝えてくれ」 俺は伝令の兵にそう伝えると降伏した小早川隆景に、捕らえられた吉川元春に会いに行った。 「小早川殿、無理を致すな。今、軍医を呼ぶから楽にしていろ」 「ぐっ、忝ない」 小早川隆景が顔を青白く染めて辛うじて答える。 「こっちは元気だな」 俺は吉川元春へと向き直る。 「ふん!儂を殺しても息子が居るわ!」 いや、息子は意外に早死にするぞ。 そして、吉川広家が至らん事を仕出かすぞ。 「まあ、こっちはほおって置いても大丈夫だな」 身代金はなんぼ取れるだろうな? 毛利軍本隊を追い詰めるべく浅井長政は絶好調だ。 毛利の本城、郡山まで追い詰めた。 長政は郡山を包囲して諸将と織田信長、只野仁を待つ事にする。 やがて仁が軍を引き連れて現れる。 羽柴、堀、宇喜田もそれぞれ軍を率いて現れる。 「さてと、此れからどうする?」 「先ずは大殿に報告をしてるから返事待ちだぎゃあ」 「拙者も大殿の到着を待ったほうが良いかと」 堀久太郎が答える。 「分かった。んじゃ、まあこのまま包囲を継続しよう」 「はっ」 「承知」 「承りました」 包囲を羽柴、堀、宇喜田と共に郡山を完全包囲して蟻の隙間も無いように包囲する。 さて、後は義兄の信長を待つだけだな。 数日後、信長が単身やって来た。 「何を考えて居るんだ義兄、外は敵だらけだぞ。近衆くらい連れて来いよ」 「すまんすまん、あの毛利を此処まで追い詰めたのに興奮が隠せんでな」 俺が此処まで軽口を叩けるのも信長と長年の友義を結んで来たからだ。 「それで、どうします?城を落とせと言えば落とすけども?」 「いや、毛利は使える」 「じゃあ、降伏を促すのですか?」 「うむ、義弟よ使者を頼む」 「条件は?」 「安芸と長門の二ヶ国安堵だ」 それはまたシビアだな。まあ、決戦で決着はついたし、何とかなるだろう。当主は一応、生きてるし。 此れで駄目なら城を枕に討ち死にして貰うか。 俺は郡山城の前に降り立つ。 一応、誠意を見せる為に単身で毛利の使者となる。 いざとなれば脱出は出来るし、俺の言葉が何処まで通用するかだな。 俺が毛利の降伏の使者として来たら、郡山城の評定の間に案内された。 ううむ、敵意が心地イイィィィッ! 周りぐるりと毛利の家臣団。 「良くぞ来られた只野殿」 毛利輝元が俺を出迎える。小早川隆景と吉川元春は今は捕虜になってるからね。 「では早速、話に入りましょうか?」 俺は毛利輝元に降伏するように説明する。 所領安堵は安芸と長門の二ヶ国のみ当然、毛利輝元は納得が行かないと紛糾する。 「ではもう一度戦いますか?今から城攻めをしても構いませんよ?捕虜になってる小早川隆景殿と吉川元春殿の命もどうなるか分かりませんよ?」 この言葉が決定的となり、毛利輝元は降伏と二ヶ国安堵を了承する。 郡山を出て行く毛利軍を見送る只野軍。あれだけの損害を与えたのだ当分は大人しくするしかないようだ。 元毛利領は滝川一益等が治める事になった。 俺は改めて信長から、大量の銭を貰い江戸へと帰って行った。 「義弟よ、天下統一仕上げの九州征伐の先鋒は義弟、貴様に任せる」 どうやら俺はまだまだゆっくり出来ないようだ。
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