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戦は只野軍がメインとなる事が決定した。
連れて来た兵数が一番多いのが決定的だった。
「攻めて来る将は恐らく島津家久。島津家久の軍を討ち破ろうと思います」
蒲生氏郷が軍議の面々に伝える。
「うむ、強兵で名を轟かす島津を討ち破る事に異存なし」
長宗我部信親が氏郷の言葉に同意の意を示す。
「島津と言えば釣り野伏せ、此れを正面から討ち破ります」
「おうおう、若い者は元気が良いの」
「左様」
「蒲生殿、別に無理に釣り野伏せに引っ掛かる必要は無いのでは?」
長宗我部元親が答える。
「島津の心を折る。大殿からの御命令です」
氏郷は静かに言葉を紡ぐ。
静まり変える軍議の空気の中、氏郷は自信満々に答える。
「只野軍の強さを信じて下さい」
此処に揃って居る武将達は只野軍の異常な強さを身を持って体験してる。
異を唱える事など誰が出来ようか。
只野軍、長宗我部軍、十河、三好軍は島津軍を討ち破る為に出陣して行った。
なお、大友軍は妙林尼の指揮の元、臼杵城に残る事になった。
「只野軍か、どれ程の強さか試させて貰おうか」
先陣は只野軍と聞いて、密かに島津家久はニヤリと笑ったのであった。
島津軍一万一千、只野軍一万、長宗我部軍三千、十河、三好軍千五百。
兵力はほぼ互角、長宗我部軍と十河、三好軍と上手く連携すれば島津軍を圧倒出来るが、蒲生氏郷は先ずは只野軍のスパルタ兵のみで島津軍と相対する事にした。
長宗我部軍と十河、三好軍は後詰めとして後方で備える。
九州平野部にて、島津、只野軍の両軍が睨み会う。
青いマントを翻し、スパルタ兵が蒲生氏郷を先頭に島津軍へと突撃して行く。
スパルタ兵が突撃してくる中で家久は巧みに兵を操りスルスルと兵を退かせて行く。
只野軍が先へ進むと島津の伏兵に取り囲まわれた。
「今だっ!鉄砲を一斉に放てぃっ!」
島津家久の号令の元に鉄砲の一斉射撃がスパルタ兵を擁する只野軍に襲い掛かる。
パパーンッ!パーンッ!パパーンッ!
此れで只野軍の大多数を討ち取れる筈だった。
島津家久も完璧なタイミング、完璧に決まった策だとガッツポーズをした程だ。
島津軍からの鉄砲の一斉射撃の後に暫し静まり変える戦場…
鉄砲の硝煙が晴れる頃に現れた只野軍を見て島津家久は驚愕する。
無傷、圧倒的無傷で只野軍は立って居た。
蒲生氏郷は自らに無数の鉄砲の玉が当たるのを確かに感じて居た。
しかし、気づいて居たら自身に傷の一つ処か、何も無い。
「ははは…ははははははははははははははははっあぁっ!!」
蒲生氏郷は笑い続ける。
「大殿から拝領した武具の凄まじき事よ!全軍、我に続けぇっ!」
氏郷の顔は狂信者の顔になって居た。
無傷のスパルタ兵、一万が島津軍の釣り野伏せの包囲を喰い破ろうと動き始める。
氏郷の狂信はスパルタ兵全軍に伝播して行く。
氏郷を先頭にスパルタ兵一万が島津軍へと突き刺さる!
ただ、ただ前へ、ただ前へ。
弟の蒲生重郷も氏郷の狂信振りは置いておいて、前へ前へと声を上げて進む。
「全軍!鯰尾兜を目印に進め!我等の総大将は其処へ居るぞ!」
「させるか!島津の強兵共よ!只野軍を包囲殲滅せよ!」
此処で只野軍に抜けられたら、不味いと本能的に察知した家久は島津軍全体に号令を掛けて鉄砲を放つ者、只野軍に突撃する者を自身が巧みに操り、此れ以上進ませまいと動く。
家久は氏郷が率いる只野軍が普通じゃ無い事に鉄砲の一斉射撃の時に気づいた。
「まさか、噂の只野仁の精兵すぱるた兵とかと言う奴か!?噂に過ぎずと思って居ったのにっ!」
ギリィッ!家久は奥歯を鳴らせる。
只野軍を現状は包囲して居るがドンドン戦線は押し返されて行く。
「ちぃっ!化物共めっ!」
「押せ押せ押せ押せぇっ!」
蒲生氏郷はただ前へ前へと狂信的な顔を浮かべながら前へ進む。
島津軍から鉄砲を撃ち込まれようと、槍を刺されようと向かって来る島津兵は、自らの槍で倒し、この包囲を喰い破るべくスパルタ兵を進ませて行った。
戦線が伸びきり、いよいよその時がやって来た。
島津兵を押し返し、氏郷は島津軍の包囲を破った。
「今度は此方の番だ。島津軍を包囲するぞ!」
兵数は島津軍側か一千と数が僅かに多いが氏郷は構わず島津軍に逆包囲を掛けた。
こうなると攻守の関係が逆転する。
完全包囲した只野軍は鉄砲を使って一斉射撃を連発する。
次々と島津兵が倒れて行く。
長宗我部軍も後詰めとして、島津軍を逃さぬように動きまわる。
長宗我部家を引っ張る次代の当主、信親は顔を真っ赤にして「攻めよ!」と号令を発する。
三好、十河軍も討ち漏らした島津軍を討つべく動き出し始めた。
「殿、お逃げ下され」
「有信、儂は残るぞ!島津はまだ負けて無い!」
「いえ、既に負けてます。あの只野軍が現れた時に撤退の判断をするべきでした。今は泥を啜ろうとも逃げて下さい義弘様に合流すればまだ巻き返しが出来ます!」
そう言って山田有信は家久の馬に渇を入れて戦場から離脱させて行った。
島津家久軍の損傷は六千を超える。
充分に壊滅的であった。
しかし、山田有信は馬を走らせる。残った島津軍に号令を掛けると最後の突撃を敢行した。
その突撃によって島津家久軍は壊滅に追い込まれ山田有信自身も命を落とす事になる。
場所は変わって立花城。
其処には三人、いや四人の猛獣が暴れ回って居た。
「わはははっ!どうしたどうした!」
立花道雪は城から討って出て攻め寄せて来る島津軍に痛撃を与えて行く。
ふむ、後少しで織田家本隊も来る頃かな?その前に毛利軍が来そうだがな。
俺も立花城から飛び出して一騎当千の活躍をする。
向かって来る奴は見敵必殺、見敵必殺だ。
爺と俺の活躍により、まともに城に取り付けない島津軍。
島津義弘は苦難して居た。
「くっ、今回もまともに城に取り付けんか」
「既に千ではきかない被害が出ております」
「分かって居る!」
配下からの言葉をむきになって返す義弘。
そんな苦難する義弘に報がもたらされる。
「島津家久様、敗北!御味方壊滅!」
ガタンと椅子から立ち上がる義弘の判断は素早かった。
「撤退だ!撤退するぞ!」
義弘が撤退を選んだのは家久を破った軍とこのまま残れば挟撃される事を恐れたからだ。
しかし、島津軍が撤退に移るのを、そう易々と逃す立花城の面々ではなかった。
最初に異変に気付いたのは立花宗茂。
「戦場の空気が変わった…」
其処へ高橋紹運が現れる。
「父上…」
「宗茂か、島津の奴等はどうやら退くようだ」
「それは真ですか?」
「うむ、儂の目から見て間違い無い」
「ならば、やる事は一つですね」
「うむ」
立花宗茂と高橋紹運親子は島津追撃戦を行う事を決めた。
「う~ん、空気が変わった。こりゃ島津は撤退を選ぶのか」
「只野殿~!」
立花道雪がたまたま近くに居た仁に呼び掛ける。
「島津が退いて行きますじゃ!今こそ追撃戦を仕掛けようと思いますじゃ!」
その時、立花城の城門が開いた。
見ると高橋紹運の八百の軍と立花宗茂の千五百の兵が出てくる所だった。
「良い判断だ」
「儂の自慢の娘婿ですじゃ」
俺が短く道雪に言うと、道雪は自慢気に俺に返す。
俺と道雪はそれぞれの軍を率いて立花城の軍に加わると猛然と追撃を開始した。
「逃げろ!余計な物は全て捨て置け!」
そして島津義弘は撤退の指揮を取って居た。
既に殿の部隊を置いたが何時まで持つか分からないので撤退を急がせる島津義弘。
おおぉぉぉぉぉぉっ!
「もう、殿を抜いたのか!?早すぎる!」
「貧弱、貧弱うぅっ!」
「何が!?がっ!」
俺の青龍偃月刀が、敵の大将らしき男を捉える。
「ふむ、生きては居るな」
俺が気絶した敵将を観察していると、立花宗茂と高橋紹運が追い付いて来る。
「只野殿、そちらの御仁は?」
「ああ、どうやら指揮官らしいぞ。峰打ちで捕まえた」
高橋紹運が捕らえた武将の確認をする。
「やや!此れは島津義弘ですぞ!」
「マジで!?じゃあ大金星だな」
「ですな。後は追撃を掛けまくるだけですぞ!」
「その辺りは任せた俺はのんびりと行くよ」
島津義弘を欠いた事で島津軍の撤退戦は大きく被害を出す事になる。
凡そ六千の島津軍がその屍を晒し、更に途中から蒲生氏郷の部隊が合流して更に島津軍は被害を出しながら本国へと撤退して行った。
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